「所得主導成長」にこだわる
賃上げ政策で経済は悪化

 しかし、政策の効果が表れる前に副作用が表れた。

 2018年は最低賃金が大幅に引き上げられた(前年比16.4%)ため、零細企業や自営業者の間で従業員を削減する動きが広がった。この影響で、就業者の増加ペースは18年に入って以降、著しく鈍化し(図表2)、卸・小売、宿泊・飲食などでは前年比マイナスになった。

 経済界からは、最低賃金引き上げや労働時間短縮によって、企業の負担が増大し投資の萎縮にもつながっているなど、政府の介入に対する不満が強まっている。

 国際機関や国内の研究機関からも、最低賃金の伸びを抑え、イノベーションを促進する政策を強化すべきとの提言が出された。

 しかし、最低賃金は2019年も2018年比10.9%、引き上げられた。

 原則にこだわる姿勢は、こうした内外からの指摘を受けても政策を変更しないところにも見られる。

 これは、(1)所得主導成長が政権の看板政策であることに加え、(2)その理論的枠組みを作った学者が大統領のスタッフとして働いていること、(3)政権中枢が政治的理念を共有する人たちで固められていることもある。

 政権内部から政策の見直しを求める声が上がりにくいのだ。

 大統領府には経済民主化や公正な経済について論じる人は多いが、マクロ経済に精通した人は極めて少ない。良質な雇用を創出するのは民間企業の役割だという認識や、政策が実体経済にどのような影響を及ぼすのかを予測する力が欠けているように思える。

 その一方で、政権幹部やスタッフからは、機会あるごとに「経済格差を拡大する過去の方式に戻ってはならない」「韓国は富の二極化と経済的不平等が最も甚だしい国になった」といった発言が出る。

 だが経済の不平等を示すジニ係数は、2009年をピークに総じて低下し、OECD諸国のなかでも中位である。政策を正当化するために、意図的に誤った現状認識を示していないだろうか。