視力の低下や頭痛などの症状で偽装写真はイメージです Photo:PIXTA

 急増している「梅毒」。昨年1年間の患者数は、一昨年の届け出患者数を1000人あまり上回る6923人となった(2019年1月7日集計分/国立感染症研究所データ)。未集計分を考慮すると、およそ半世紀ぶりに7000人台に迫る勢いで、もはや異常事態といえる。

 昨年5月公表の岡山市保健所の独自調査(調査期間10~17年)によれば、男性患者は各年齢で増加しているが、17年に限ると40~50代が増加。女性は17年以降、20代の増加が顕著となっている。

 感染経路をみると15年以降、男性患者では異性間の接触が同性間を上回った。また、17年の聞き取り調査からは、異性間の性行為で梅毒に感染した男性の7割が、過去数ヵ月以内に風俗店を利用していることが明らかになっている。

 女性の感染経路は100%異性間接触によるもの。女性患者の25.9%、4人に1人は不特定多数の異性と接触するコマーシャルセックスワーカーであり、一方で特定のパートナーから感染したと考えられる届け出数も増加している。

 梅毒は「偽装の達人」の異名をとる性感染症だ。性器のしこりや潰瘍、リンパ節の腫れ(別に痛くはない)、ピンク色の皮疹など典型的な症状のほか、視力の低下、関節の痛み、頭痛などおよそ性感染症とは結びつかない多彩な症状を示す。初期症状は数週間から数ヵ月もたつと自然に消えるが、感染力だけは旺盛、というやっかいな代物だ。

 おまけに現役医師の多くは梅毒を診た経験が「ない」。最初から梅毒を疑わない限り、見逃し、誤診リスクはかなり高いといえる。

 梅毒の原因菌は感染力が強く、保菌者とコンドームなしでセックスした場合の感染率は15~30%。さらに、妊娠中の女性が保菌者で無治療だった場合、胎盤を介して胎児に感染する確率は6~8割だ。その先には、新生児死亡や早産、先天性梅毒による後遺症というつらい現実が待ち構えている。

 老若男女を問わず、不特定多数とリスクが高いセックスをしているならば、必ず定期的に保健所で梅毒血清反応検査を受けること。自分のセックスに責任を、である。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)