背筋が凍りそうな3000億円の利益の消滅…そこからクレジットカード事業を新たに立ち上げ、さらには小売り事業で「売らないお店」を標榜して独自の店舗づくりを進め、攻めに転じている丸井グループ(以下、丸井)。似たような商業施設が多い昨今、いかに差別化をはかっているのか。また、これまでの改革を可能にした社内文化の変革法とはどのようなものだったのか。2005年から同社のかじを取る青井浩社長に、『ファイナンス思考』著者の朝倉祐介さんが聞きました。(撮影:野中麻実子、作図:うちきばがんた)
賃貸借型で成長を最大化する手法
株式会社丸井グループ代表取締役社長
1961年生まれ。慶應義塾大学卒業。1986年株式会社丸井(現:株式会社丸井グループ)入社。91年に取締役営業企画本部長、2001年に常務取締役営業本部長に就任。04年に代表取締役副社長を経て、05年4月より代表取締役社長に就任。
朝倉祐介さん(以下、朝倉) 経営危機を乗り越え(詳細は前編参照)、近年のビジネスは「攻め」に転じられていると拝察します。たとえば「売らないお店」を標榜され、フィンテックでは資産運用のビジネスも始めてらっしゃいますが、今後はどういったサービスを展開されていくのか伺えますか。
青井浩さん(以下、青井) これからいよいよ面白くなってくるのかなと思っています。収益のダウンサイドを遮断するだけでは成長性がなくて面白くないですけど、今後は賃貸借型の売り場という“基本OS”に新しいサービスを乗せていこうと考えていて、それを一言で「売らないお店」と呼んでいます。売上を前提としないでビジネスができる、という意味です。
朝倉 なぜ「売らない」ことがポイントになるのでしょうか。
青井 3つ理由があります。第一に「eコマース」がどんどん増えていく中で、リアルに物を売るお店は中長期的に厳しくなっていくということ。第二に「モノからコトへ」という消費者の志向の変化が長期トレンドで続き、モノだけでは売れない時代になっていること。第三に「シェアリングエコノミー」で買わない・所有しないという志向が益々強まっていくこと。
(本文中の図表は、特に注記がない限り『経営共創レポート2018』より一部改編)
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これら3つはすべてお客様の価値観や行動の変化で、今後強まることはあっても減退することはありません。お店の売上を前提に商売をしていると、これらがすべて脅威としてのしかかってきますが、いったん「売らなくていい」と決めて場所を貸す商売に集中すると、飲食やサービス、ヨガスタジオとか、色々可能性が広がります。
シニフィアン株式会社共同代表
東京大学法学部卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、東京大学在学中に設立したネイキッドテクノロジーに復帰、代表に就任。ミクシィへの売却に伴い同社に入社後、代表取締役社長兼CEOに就任。業績の回復を機に退任後、スタンフォード大学客員研究員等を経て、政策研究大学院大学客員研究員。ラクスル株式会社社外取締役。株式会社セプテーニ・ホールディングス社外取締役。2017年、シニフィアン株式会社を設立、現任。著書に、新時代のしなやかな経営哲学を説いた『論語と算盤と私』(ダイヤモンド社)など。
朝倉 売らなくていいと決めたら可能性が広がる、というのは面白いですね。
青井 たとえば会員制のサービスなどは従来、売上を計上できないので入居いただけませんでしたが、家賃さえ払っていただければいいという今のシステムならご入居いただけます。このほか、eコマースでスタートした会社の中には、売ることが目的ではなく、ショールームや体験・コミュニティを提供する場としてリアル店舗を出したいという要望が増えています。ところが、条件が合って出せるスペースがなかったようで、今、弊社に少しずつ引き合いが増えてきています。