他人から乱雑なメモや整理されていない箇条書きを見せられても、僕たちはその人が何を考えているのか、なかなかわからない。しかし、プロトタイプが目の前にあれば、少なくともそこには対話の「場」が生まれる。

小さな子どもが粘土でつくったものに対し、「これはゾウさんかな?」と聞けば、その子は「これは消防車だよ」と答えるかもしれない。すると、僕たちは「じゃあ、ここにタイヤをつけたらどうかな?」などと、別のアイデアを提案することができる。

これと同様、実際のビジネスにおいても、「次世代スマートフォン」に関する未完成のスライド資料を見せられる前に、企画者がイメージしているもののプロトタイプがあったらどうだろうか?

プロトタイプの素材はなんでもかまわない。ペンタブレットで描かれたスケッチかもしれないし、レゴブロックの作品かもしれない。たまたまデスクのうえにあったブロックメモとペンを組み合わせてもいい。

とにかく何か具体物があることによって、人と人との議論が生まれるため、アイデアが進まなくなる事態を避けられるのである。

また、プロトタイプを目にしながら「言語化」を行う過程で、メンバーのVAKモードが異なっていれば、本人が見落としていた発想が容易に見つかるだろう。

視覚優位の人のプロトタイプに対して、ほかのメンバーから「なんだかこの部分はボタンが多くて、ガヤガヤうるさい感じがする」(聴覚言語)、「もっと温かみを出せないかな」(体感覚言語)といったフィードバックが出てくるような場面を考えてみてほしい。

そのためデザイン思考は、チーム・組織が共通して抱えている同じ1つの課題を解決していく際には、非常に心強いアプローチとなる。生活者のリサーチを行うのも、創造のための「共通言語」をつくるという意味合いが大きい。

ユーザーリサーチを経ないプロジェクトも含め、あらゆるビジネスの業界でデザイン思考が広がりつつあるのは、共創型の課題解決メソッドとしての汎用性の高さゆえだろう。また、ここ10年くらいでSNSやクラウドツールが普及し、誰とでも協働のしやすい環境が用意されている。

プロトタイプをオンラインで素早くシェアし、それに対する瞬時のフィードバックを得ながら、再度、プロトタイピングのサイクルを回していけるという意味では、デザイン思考はより“現代向き”の発想法だとも言えるだろう。