何かを発想しようというとき、僕たちは「ちょっと煮詰まってしまって……。なかなかいいアイデアが出ないんだ」などと言うことがある。
しかし、構築主義の世界では、こうしたことは原理的には起こり得ない。
頭のなかあるアイデア以前に、まだ言葉では説明しきれない具体的なプロトタイプがまずある。この点では、デザイン思考と戦略思考は「真逆」の手順を踏んでいると言うことができるだろう。
デザイン思考の特徴(2)
五感を活用して統合する―両脳思考
1960年代半ば、スタンフォード大学の一部の研究者たちのあいだには、1つの問題意識があった
「論理的な思考力に優れたエンジニアたちは、ややもすると新しいものを生み出す創造性を失っていきがちで、それを放置していると、アメリカからイノベーション創出の力が失われてしまうのではないか」――。
そうした危機感から生まれたのが、「視覚思考(ME101:Visual Thinking)」ないし「両脳思考(Ambidextrous Thinking)」と呼ばれるプログラムだった。これがスタンフォード大学D.schoolなどで教えられているデザイン思考の土台になっている。
両脳思考という言葉が指し示すとおり、ここにはいわゆる「左脳/右脳」「論理/直感」「言語/イメージ」といった二項対立を乗り越え、両者を統合しながら新しいものをつくるという態度がある。
つまり、デザイン思考というのは、個別具体的な直感・イメージだけを重視するものではない。非線形的な思考モードへの再評価からスタートしながらも、単なる思いつき・妄想で満足したりはしないのである。
むしろ、直感と論理とのあいだを自在に行き来する「往復運動」こそが、デザイン思考の本質だと言えるだろう。スタンフォード大学で提唱された「両脳思考」でも、思考のLモード(言語脳)とRモード(イメージ脳)を自覚的に切り替えながら、発想を磨き上げていく手続きが推奨されている。
したがって、まず手を動かしながらプロトタイプをつくったら、一定の「言葉」に落とし込む作業も忘れてはならない。わかりやすいのは、その具体物に「名前」をつけることだろう。もちろん、いくつかキーワードを列挙するような作業でもいい。