上場の選択肢は増えるべきなのか

小林:やはり選択肢がないということは、いろんな意味で不都合を生み出しやすいのかなという気がしますね。特にIPOは起業家にとっては何度も経験するわけじゃないので、これしか選択肢がないと言われると、「そういうものかな」と思い、他のオプションを探索せずに、そのまま流れているというパターンになっていると思うんですよね。

朝倉:あえて問いますが、「マザーズではなく東証一部に直接上場します」じゃダメなんですか?

小林:ありえるとは思うんですが、東証は安定した企業にとってのマーケットで、基準についても利益や純資産額など新興企業には必ずしも即さない基準で判断されます。逆に、東証一部の基準を緩和してしまうと東証一部全体の趣旨がぶれてしまいます。一部は一部で、今の基準が必要でしょう。

 もう一つは、東証一部だとパッシブ運用の投資が入ってくるわけですが、ボラティリティが高い会社が急に東証のインデックスにいきなり入ってくるのは、正直迷惑という状況は、過去の事例でもありました。そこについては慎重な判断が必要なのではないかと思います。

村上:東証一部は事業性のリスクも市場性のリスクも低く、一番投資しやすい市場という位置づけだとすると、現状のマザーズは事業性も市場性も、リスクが高い市場になっていると思います。だから、第三の選択肢として、事業性のリスクは高いが、流動性は確保して、市場性のリスクが限定されているという組み合わせの市場ができると、東証一部とマザーズとの差別化ができるのかなという気がします。

朝倉:マザーズのもともとの設立趣旨に立ち返ると、名称は”Mothers:Market of the high-growth and emerging stocks”ではあるのですが、現実には「東証一部に対する二軍三軍」扱いになっている向きがないこともないですよね。そうではなく、完全に別個のものとして、真に成長を志向する会社のための場とがあってもいいんじゃないかとは思います。

村上:その通りですね。最後に付け加えたいのは、マザーズ上場の場合は初値で2倍に吹き上がることもありますから、なかなか未上場時から出資している既存投資家に最初に売ってくれと言いづらいということ。

 あらかじめ、上場時の時点から機関投資家が、いいプライスで入ってこられるような市場環境が整えることができれば、より流動性を作っていくこともできると思いますし、現状のマザーズが抱えるような課題点も払拭していくことができるんじゃないでしょうか。

*本稿は、Voicyの放送を加筆修正し、signifiant styleに1/16に掲載した内容(編集:中村慎太郎)を、一部改編しています。