「深層演技」を用いることで
感情的不協和を避けられる可能性も

 では、感情的不協和に陥らないようにするためには一体どのようなことに気をつければいいのでしょうか。感情労働を全くしないというわけにはいきませんので、その際にできるだけ表層演技よりも深層演技を用いることです。

 上記のアルバイトの例でいうと、「料理の提供が遅れたのは私のせいではないのに」と思うのではなく、「キッチンもホールも全員が同じ店の一員である自覚を持ち、誰が失敗したとしても責任は全員にある」などと思い込むようにする、といった具合です。

 深層演技は、一度うまくいくと自分の本当の感情が仕事上求め得られる感情に近づいていくため、表層演技に比べて偽ったり隠したりする必要がなくなる一方で、仕事上必要な感情状態に入り込むことが求められるという点から、表層演技に比べてより高度な感情管理だといわれています。また、忙しいときやスピードが求められるときは、表層演技の方が都合がいい場合もあります。

 そこで、皆さんが効率良く深層演技を使えるようになるための工夫の1つとして、仕事前には必ずこれをする!という自分だけのルーティンを作り、感情の入れ替えをしやすくしてみるとよいかもしれません。

「制服に着替えるときは必ず右腕から袖を通す」とか、「店に入る前に大きく深呼吸をする」とか、どんな行為でも構いません。重要なのは、そのルーティンをした瞬間に、自分自身を「プライベートモード」から「仕事モード」へと切り替えるという感覚を持つことです。それによって、深層演技がよりスムーズにできるようになる可能性が高まります。

 ただし、深層演技も、時には感情的な疲労感と結びついてしまう可能性が指摘されているため、気をつけなければなりません。なぜなら、深層演技で生じる感情は、あくまでも「仕事で必要なために意図的に作り出される感情」であり、自然な感情表現とはやはり異なるからです。

「これは仕事だから」とある程度割り切ることによって、「仕事で何を言われても、今は演技中のためプライベートの自分に言われているわけではない」といった考え方ができるようになることも大切です。それでも、感情的不協和を完全になくすことは恐らく不可能なため、ストレスが生じた際に備えて職場におけるセルフケアやラインケアも重要となってくるでしょう。例えば、EAP機関が提供している、カウンセリングサービスなどを利用してみるのも1つです。

 今回ご紹介した感情労働は、まだまだ解明されていない部分や概念的な整理の必要な部分も残されていますので、今後も研究を進めていきます。

(アドバンテッジリスクマネジメント 調査研究部 中川紗江)