人知れず積み上げてきた業績がある日突然、脚光を浴びる。本人は「今更なぜ?」と狐につままれた気分。ビタミンD(以下VD)がまさに今、そんな感じだ。

 「抗酸化」「抗老化」をうたい文句に一世を風靡したビタミンCやEに比べ、VDは地味な存在だ。長い間、骨のビタミンとしか認識されず、くる病や骨粗鬆症の予防など限定された位置にあった。

 しかし、1980年代後半、日照量が少ない地域ほど大腸がんや乳がんの発症・死亡率が高いことが判明、がぜんVDに関心が集まった。VDは紫外線を浴びることで人間が合成できる唯一のビタミンだからだ。また、そのころには骨以外への作用が明らかになっていた。現在、VDは高血圧の改善、動脈硬化の予防のほか、がんや自己免疫疾患、感染症の発症予防に関与すると考えられている。

 VDの働きの鍵の一つは免疫力。血液中のVDはウイルスなど病原体のセンサー細胞と共同で自然免疫力を高め、病原体の侵入を防いでいることがわかっている。慈恵会医科大学の浦島充佳准教授らの研究によると、冬季のインフルエンザ流行時期前からVDを意識して摂取しておくと発症率が半分に減るという。自然免疫が活性化されウイルスの活動を抑えるのだ。先日報告された海外の研究では加齢に伴うVD合成能力の低下と血中VD濃度の減少が、自然免疫系の機能不全と関連することが示された。両研究者は異口同音に日光浴やVDサプリメントの摂取を勧めている。

 困ったことに現代人はVDを十分に合成できるほど紫外線を浴びていない。過度の紫外線対策も一因だが、ガラス越しの日光ではVDは産生されないのだ。全世界人口の半数近くがVD不足に陥り、関連疾患が増えると警告する研究者もいる。インドア派、自家用車派は意識して太陽光を求めよう。

 これからの季節、クールビズの半袖、長ズボン姿(肌露出10%程度)なら、合計30分程度の日光浴でかなりのVDが合成できる。直射日光が降り注ぐ正午ごろは、さらに短時間でVD合成が可能だ。昼休みの散歩はお勧めである。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)

週刊ダイヤモンド