小泉進次郎さんがキックオフイベントで話してくれたこと

──2月に開催されたイベントで、小泉進次郎さんも同じような話をされていましたね。

 そうですね。「CancerX」という、がんにまつわる課題を医・産・官・学・民などの業界を越えて協力して解決していくことを目指すプロジェクトを仲間とともに立ち上げ、そのキックオフイベントに小泉さんが登壇してくださいました。その席で、小泉さんがこうおっしゃったんです。

 「僕の番記者の一人に、がん治療中の方がいるのですが、その方に『ずっとマスクをしていてすみません。がんで治療中なんです』と言われたんですね。そのときに、俺はなんて想像力が欠けているんだと思いました。マスクをしている方の中には、がん治療中という事情をかかえた人もいるということに、気づかされたんです。それ以来、マスクをしている方に対する僕の見方は変わりました。がんの経験者が、経験がない者に話をしてくれることで、今まで見えなかったことが見えるようになる。そうすると、社会はもっと優しく、人のことを思いやれるようになるんです」

 この話を聞いて、小泉さんのように感じてくれる人がもっともっと増えればいいな…と心の底から思いました。

 このような話を聞いても、「他人事」と感じる人が多いかもしれませんが、誰しもある日当然、当事者になる可能性があります。私のように、ある日突然、大きな病を告知されるかもしれないし、身内など大事な人が大病にかかるかもしれない。東日本大震災のような大きな災害が身に降りかかるかもしれません。

 自分とは違う立場や経験、価値観を持つ人の気持ちを、一人ひとりが今よりもう少し「想像」できるようになれば、日本はもっと温かく、優しい社会になると思っています。

──昨年末で、記者として12年8ヵ月勤めた日本テレビを退職されました。これからはどのような活動をされるご予定ですか?

 実はもうすぐ、夫とともに世界一周の旅に出かけます。世界一周は、以前からの夢。がんを告知されたとき、「もう結婚も出産も、世界一周旅行もできないんだ」と愕然としましたが、そんな瞬間にも頭に浮かぶほど、強く思い続けていた夢でした。

 1年間ほどの予定で世界のさまざまな地を訪れ、いろいろなことを肌で感じたいと考えています。世界中に生きる人々と出会い、そこに存在する課題と、それを解決している取り組みを学び、たくさんのヒントを得たい。そして、帰国後は、世界中のいいアイディアをかけ合わせて、夫と2人でいろいろな人が寄り添って支え合える場や、社会をよりよくする仕組み作りに力を注ぎたいと思っています。

 繰り返しになりますが、この世界に生きる人の数だけ多様性があるということを理解し、他人の事情を想像できる人を、一人でも多く増やしていきたい。そして、支え合える社会をつくっていきたい。そんな目標に向かって、これからも走り続けたいと思っています。

鈴木美穂(すずき・みほ)
認定NPO法人マギーズ東京共同代表理事/元日本テレビ記者・キャスター
1983年、東京都生まれ。2006年慶応義塾大学法学部卒業後、2018年まで日本テレビ在籍。報道局社会部や政治部の記者、「スッキリ」「情報ライブ ミヤネ屋」ニュースコーナーのデスク兼キャスターなどを歴任。2008年、乳がんが発覚し、8か月間休職して手術、抗がん剤治療、放射線治療など、標準治療のフルコースを経験。復職後の2009年、若年性がん患者団体「STAND UP!!」を発足。2016年、東京・豊洲にがん患者や家族が無料で訪れ相談できる「マギーズ東京」をオープンし、2019年1月までに約1万4000人の患者や家族が訪問。自身のがん経験をもとに制作したドキュメンタリー番組「Cancer gift がんって、不幸ですか?」で「2017年度日本医学ジャーナリスト協会賞映像部門優秀賞」を、「マギーズ東京」で「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2017チーム賞」を受賞。