デジタルが企業に再定義を促すといっても、再定義をしてから行動するのではなく、デジタル化に取り組むことによって何かが生まれ、それをもとに再定義をしていくということだ。いまは、再定義に向かうまでのプロセスの只中にいる。

 事業立地も、5年後、10年後には確実にいまとは変わっているはずだ。それを後押ししているのがデジタルだ。どこに向かっていて、どのように変わっていくかはわからないけれども、デジタル化はやらなければならない。動かなければ負けてしまう。いまやっているデジタル化の方向性が果たして正しいかどうかもわからない。結果的に何も得られないかもしれないし、むしろマイナスかもしれない。

 それでもデジタル化に突っ走っているのが欧米の経営者である。なぜなら、確実にデジタル化が進むことをよくわかっているからだ。しかし、日本企業の経営者は、欧米の経営者に比べてワンテンポ、ツーテンポ遅れている。

 結果として、デジタルが企業に再定義を促すのは、思わぬ競合が自分の事業立地に参入してきたり、これまで競合として戦っていた企業がデジタルを導入し、先に新しいサービスを押さえてしまったりするからだ。

 デジタル化は不可避であり、結果的にこれからはいろいろな業界・業種が領域を広げていく。そのため、これまでの競争相手以外と戦わなければならなくなり、結果として否応なくデジタルを使ったビジネスに乗り出さなければならなくなる。

企業がサブスクリプションに乗り出す理由

 タイヤメーカーのミシュラン(Michelin)が始めた新しいサービスが「マイレージ・チャージプログラム」だ。これはペイ・バイ・ザ・マイル(pay by the mile)、すなわち自動車の走行距離に応じてタイヤ使用料を支払うサブスクリプションモデルである。サブスクリプションとはビジネスモデルの一つで、製品やサービスの利用期間に応じて代金を支払う方式だ。

 ミシュランは、このサービスを提供することによってイノベーションのジレンマに陥る。マイレージ・チャージプログラムが普及すればするほど、ミシュランのタイヤの販売数が減り、本流の事業体を侵食していくことになる。

 では、なぜそのようなビジネスに乗り出すのか。それは、乗り出さないと生き残れないからだ。おそらく本音ではやりたくないはずだ。しかし、サブスクリプションにいち早く手を出しておかないと、他のタイヤメーカーに先んじられたとき、あらゆる収益チャンスを失ってしまう。そのことを、ミシュランの経営陣はよくわかっている。