いま、自家用車を保有する人が減少するなか、自動車メーカーも相次いでサブスクリプションモデルに乗り出している。すでにBMW、ポルシェ、メルセデス・ベンツ、現代自動車などが毎月定額制で自社のさまざまな車種に乗ることができるサービスを始めている。トヨタ自動車も、2019年に自動車サブスクリプションの「KINTO」を正式にスタートさせた。
これも、ミシュランと同じ理由で、自動車メーカーは本音ではサブスクリプションなどやりたくないはずだ。サブスクリプションが普及してしまうと、本丸の自動車が売れなくなってしまう。それでもあえて進出するのは、そこに行かないと負けてしまうという危機感があるからだ。
こうしたサービスは、現段階では儲からないかもしれない。だが、顧客のニーズがいままで以上に把握できるようになる。
サブスクリプションに移行することで、顧客の利用データをつぶさに把握できるようになるからだ。何月何日にどの車をどこからどこまで何時間利用したか、その後どんな車種に乗り換えたか、どの顧客がプレミアムサービスに乗り換えたか、どの顧客が解約しそうなのか。こうしたデータをもとに顧客との長期的な関係を築き、将来の成長につなげようと投資している。
ミシュランも、タイヤの走行マイルがわかれば、それ以上の「何か」が付加価値として出てくるかもしれないと考えているはずだ。まだ最終目的すらわからないなか、この取り組みをやってみたら鉱脈にあたるかもしれないという期待がドライブ要因になっている。
このような製品販売からサービス提供業への転換は、もはや「やったほうがいい」ステージではなく、「やらなければならない」ステージに来ている。やったからといって売り上げが伸びるとは限らないが、やらないと負けてしまうのは明らか。そんな時代に入っている。
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第1回 まもなく到来する「データ・ドリブン・エコノミー」とは何か?
第2回 デジタル革命は「助走期」から「飛翔期」へ。真のデジタル社会はいつ訪れるか?
東京大学大学院工学系研究科教授
1965年生まれ。1987年東京大学工学部電子工学科卒業。1992年同大学院博士課程修了。博士(工学)。2006年東京大学大学院工学系研究科教授。2007年東京大学先端科学技術研究センター教授。2017年4月より現職。
IoT(モノのインターネット)、M2M(機械間通信)、ビッグデータ、センサネットワーク、無線通信システム、情報社会デザインなどの研究に従事。ビッグデータ時代の情報ネットワーク社会はどうあるべきか、情報通信技術は将来の社会をどのように変えるのか、について明確な指針を与えることを目指す。
電子情報通信学会論文賞(3回)、情報処理学会論文賞、ドコモ・モバイル・サイエンス賞、総務大臣表彰、志田林三郎賞などを受賞。OECDデジタル経済政策委員会(CDEP)副議長、新世代IoT/M2Mコンソーシアム会長、電子情報通信学会副会長、総務省情報通信審議会委員、国土交通省国立研究開発法人審議会委員などを歴任。
著書に『データ・ドリブン・エコノミー』(ダイヤモンド社)がある。