男性は創業メンバーであり、役員でもあったから、仲間として心の底から支えようとしてくれたのだ。だが従業員20人足らずの小さな会社で、週3回も戦線離脱する社員を支える負担は小さくない。男性はよく分かっていたので、3年ほど厚意に甘えたものの結局退職し、20代の若手社員と2人で起業した。

 しかし起業は失敗。50歳目前で病気持ち、フルに働けるのは週半分だけという条件での求職活動は困難を極め、半年かけてようやく就いたのは、検体回収のアルバイトだった。

 時給1200円。契約している病院を車で回り、検査用に採られた血液を回収し、検査施設に持って行く。男性には子どもが2人いるが、もう独立していたので、夫婦2人が食べていければいい。妻もパートに出てくれたお陰で、生活はなんとかできる。

 週末は、草野球チームでプレーし、少年野球の監督もした。野球は、男性にとって唯一の趣味だった。野球しているときだけは、憂鬱なことをすべて忘れることができた。

 しかし、身体は見えないところでじわじわと蝕まれていた。ある日、試合でヒットを打った男性は走塁中に足をひねり、アキレス腱断裂の大怪我を負ってしまった。

「透析患者さんは、筋力も骨も衰えやすいし、ケガも治りにくいんですよ。ウォーキング程度の運動は推奨しますが、もう野球のような激しいスポーツはやめてください」

 ドクターストップがかけられ、検体会社の担当者からもくぎを刺された。

「仕事に穴をあけられるのは困るんですよ。だから病人を雇うのはいやだったんだ」

研究開始から20年
3つのステップをクリアー

 日本国内には、この男性と同じように週3回、4時間の透析治療を続ける患者がおよそ33万人もいる。移植希望者は1万人以上もいるが、圧倒的なドナー不足ゆえ、順番はなかなか回ってこない。

 国際腎臓学会によると、今や世界の腎臓病患者は8億5000万人に達し、うち腎不全で透析療法や腎移植を必要とする患者は530万~1050万人と推定されている。再生腎臓は、そんな膨大な数の腎臓病患者にとっての悲願であり、希望の光そのものなのである。