中野孝次 著
(草思社/1992年)
単なる貧乏ではなく、自らの思想と意思によって送る、簡素な生活を“清貧”という。歌人の西行や良寛、俳人の芭蕉などは、富や栄達を遠ざけ、心を風雅の世界に遊ばせた。所有を最小限に抑えると、人はかえって自由になれる。
本書は、達人たちの清貧ぶりを和歌や俳句、エピソードを通じて紹介する。日本には、こうした知恵や思想が脈々と受け継がれてきたのだと著者は言う。
ところが、第2次世界大戦後は、あまりに貧しかった反動か、物を消費する生活にのみ満足を求めるようになる。本書の発刊は1992年、折しも日本経済のバブルが弾け、ひたすら物の豊かさを追い求める時代が終わろうとしていた。心、豊かに生きるとは何か。閉塞した時代の中で、読み返す意義は大きい。
(元衆議院法制局参事 吉田利宏)