岩渕 このアプローチは、ただ、勘や好きだけで特集を組むのとは違う、と思っています。むしろ、いろいろな情報を集めたときに、自分個人のフィルターに引っかかってきた感覚を掘り下げるようにしたという感じです。自分の場合、その感覚を起点にすれば、100万部売れる雑誌にはならないかもしれないけれど、たとえば3万人には届く、というようなチューニングができるようになりました。「自分がいいなと思ったことを深掘りしていけば、少なくともこれだけの読者には届く」――そういう手応えをが得られたんですよね。
佐宗 顕在化した市場ニーズを捉えるマーケティングに対して、岩渕さんがやられたのは、市場の「少し先」を開拓していくマーケティング・アプローチですね。このような自分発の感覚で「少し先」を提起することで新たにマーケットをつくっていく、いわばブルーオーシャン戦略的なアプローチがかなり成立しやすい環境になってきています。
僕も、マーケターをやっていた時代と比べると、つねに自分の感覚を起点に世の中や市場との時間差を見るようにしています。まず「自分の妄想やアイデアは、世の中とどれくらいの『時間差』があるのか」ということを考えるんですね。そのうえで、「この妄想に共感してくれるのは、きっとこういう人だろう」と想定して、実際にそういう人と話をしてみる。逆に、どんな人には響かないのかを理解したうえで、より多くの人に伝わるための必要条件を考えたり、「この『言葉』だと伝わるけど、この『言葉』だと伝わらない」といった経験を蓄積する、みたいな作業を繰り返すんです。
岩渕 それが佐宗さんなりのチューニングのやり方なんですね。僕の場合も、やはり人にしてもメディアにしても、「定点観測」の対象を持つようにはしています。チューニングの際にはやはり、そういう参照項が必要になりますよね。でも、やっぱり最終的には、自分のフィルターにかかってくるかどうかなんだと思います。
佐宗 チューニングは、自分のベースがあるからチューンができるわけで、自分の外側をデータ分析するようなマーケティング・アプローチとは真逆ですね。自分の感覚との対話のスペースがあって初めて、ベンチマークとの距離を測ることが可能になるわけですね。
(次回に続く 7/5公開)
【これまでの佐宗邦威さん対談シリーズ】
■入山章栄さん(早稲田大学ビジネススクール教授)
直感力とは「違和感に対する正直さ」である ほか
■尾原和啓さん(IT批評家)
なぜ世界はいま、ビジネス版「こんまりメソッド」を待望するのか ほか
■岡田武史さん(FC今治オーナー/元サッカー日本代表監督)
現実を動かすのはいつも、平気で“無茶”を言える「妄想家」だ ほか
■東浦亮典さん(東急電鉄執行役員)
「社外」に妄想を投げ、「社内」をひっくり返す ほか