発売1ヵ月で8万部を突破する売れ行きを見せている『直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』――同書が誕生した背景には、元サッカー日本代表監督・岡田武史氏から聞かされた「夢を語れば無形資産が集まり、それが有形資産を動かす」という言葉があったという。
出版記念イベントでの岡田氏と佐宗氏のトークライブを、全3回にわたってここに再現する(第1回/全3回 構成:高橋晴美)。

夢を語れば、無形資産が集まり、有形資産が動く

藤田(編集者。当日はトークライブ司会を担当):元サッカー日本代表監督の岡田武史さんは、現在、FC今治のオーナーであり、日本サッカー界の育成改革、地方創生に情熱を注いでおられます。本日は岡田さんと佐宗さんの出会いや、お二人の「VISION DRIVENな生き方」についてお話しいただきます。

直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』は、構想から発売まで4年かかりました。議論を重ね、構成をまとめては、さらに思考が深まって構成を見直す、ということを何度も繰り返しました。とても刺激的な作業でしたが、編集者としては、「この本はいつ完成するのだろうか…」と心配になったこともありました。

佐宗邦威(さそう・くにたけ)
株式会社BIOTOPE代表/チーフ・ストラテジック・デザイナー
大学院大学至善館准教授/京都造形芸術大学創造学習センター客員教授。東京大学法学部卒業、イリノイ工科大学デザイン研究科修了。P&Gマーケティング部で「ファブリーズ」「レノア」などのヒット商品を担当後、「ジレット」のブランドマネージャーを務める。その後、ソニー・クリエイティブセンターにて全社の新規事業創出プログラム立ち上げなどに携わる。ソニー退社後、戦略デザインファーム「BIOTOPE」を起業。バラエティ豊かな企業・組織のイノベーション支援を行っている。著書に『直感と論理をつなぐ思考法――VISION DRIVEN』など。

佐宗邦威(以下、佐宗):そうですね(笑)。未完成交響曲のように感じたこともありました。実際には本格的に企画を考え始めてからは2年間だと思いますが、その間に編集者の藤田さんとはほぼゼロからフレームワーク作り、アカデミックリサーチ、京都造形芸術大学でのワークショップ化、書籍化までを一緒に共創させていただいたなと思っています。ここまで、深く共創する書籍企画もなかなかないのではないかと。

藤田:企画段階で、佐宗さんから提示された重要な軸の1つが、「『夢』についての本が書きたい!」というものでした。そこに深く関係しているのが、岡田さんの存在ですね。

佐宗:岡田さんとは、BIOTOPEを創業して2年ほど経った頃に出会いました。『VISION DRIVEN』にも書きましたが、岡田さんの言葉に、「最近、大人から『希望に溢れた物語』を聞くことがなくなったと思う。でも、僕は信じているんです。夢を語れば、無形資産が集まる。無形資産が集まれば、有形資産が動く、と」という言葉があります。この言葉が、当時の僕の心に深く刺さりました。岡田さんはビジョン駆動型の思考の体現者として、僕が最も影響を受けてきた方なんです。

岡田武史(以下、岡田):正直なところ、佐宗さんの前著は、僕には理解しきれない部分があった。でも、今回の『VISION DRIVEN』は違ったんだよ。ゲラの段階で読ませてもらって、「そうそう、これだ!」と思った。この本は、多くの人が抱えている苦悩を解決する「曼荼羅」にきっとなる、そう感じましたね。

佐宗:曼荼羅! それはうれしいお言葉です。曼荼羅とは、密教で悟りの境地を一枚の絵図で表したものですが、悟りとは言わないまでも、世の中の物の見方や生き方を提示したいと思ってつくったものですので、最高の褒め言葉ですね。

発売前にゲラの段階で目を通していたという岡田氏。そのときから佐宗さんの原稿を高く評価していたという。

岡田:直接出会うより前に、僕の講演を聞いてくれていたんだよね。

佐宗:はい。僕が当時日本サッカー協会の仕事に関わっていて、その分野の知人からの岡田さんが登壇するイベントをご紹介いただきました。強烈に覚えているのが、1分くらいで自己紹介をする際、僕が「戦略デザイン」の仕事をしているというお話をしたときに、「何それ、ビジョンを絵にするの?」という質問をされたことなんです。それで、「おおー!」と思ったら、冒頭のお話が出てきて、自分自身にぐさっと刺さったことで僕の人生も変わったんです。岡田さんは、今回の本をなぜ面白いと思っていただいたのですか?

岡田武史(おかだ・たけし)
FC今治オーナー/デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 特任上級顧問
1956年生まれ。大阪府立天王寺高等学校、早稲田大学でサッカー部に所属。同大学卒業後、古河電気工業に入社しサッカー日本代表に選出。引退後は、クラブサッカーチームコーチを務め、1997年に日本代表監督となり史上初のワールドカップ本選出場を実現。その後、Jリーグでのチーム監督を経て、2007年から再び日本代表監督を務め、10年のワールドカップ南アフリカ大会でチームをベスト16に導く。中国サッカー・スーパーリーグ、杭州緑城の監督を経て、14年11月四国リーグFC今治のオーナーに就任。日本サッカー界の「育成改革」、そして「地方創生」に情熱を注いでいる。

岡田:僕はサッカー選手や監督として経験を積んできたわけだけれど、強く感じたことの1つに、「日本人選手は自身で考えてプレーすることができない」というのがある。
強いと思われていた日本代表が、ブラジルワールドカップで1勝もあげることなく、グループリーグで敗退した。当時の代表監督であるザッケローニは以前からの友人なんだけれど、彼はたしかに強いチームをつくっていた。ところが勝てなかった。

また、ドイツワールドカップではジーコ監督が日本代表を率いた。大会直前のドイツ代表との強化試合では、勝ちゲームだった。ところが本大会では、オーストラリアに逆転負けした途端ガタガタになり、2敗1分で決勝リーグに進むことはできなかった。

佐宗:なぜ勝てなかったのでしょうか? 日本人には力があるはず。それでも、その力を発揮できない。それはなぜなんでしょうね。

岡田:その最大の原因は、主体的に自身でプレーを選択していない、ということだと思うのです。指示はきちんと守るが、自分で動けない。Jリーグに招聘された外国人監督はみな、「日本人選手は『こういう場面ではどういうプレーをすればいいか?』と聞いてくる」といって不思議がる。「それを考えるのがサッカーなのに……」というわけです。

あるスペイン人の監督は、スペインは16歳までにプレーモデルを教え、それからは自由にさせる、と言っていましたよ。対して日本では、子どものうちは自由にプレーさせ、ある程度の年齢になるとチーム戦術を教え込む。

佐宗:なるほど、まったく逆なんですね。主体性を生み出すための型と自由のバランスをどのようなタイミングで取るか、というのは教育の分野にも示唆がありそうですね。

VISION DRIVENに必要な共感

岡田:日本代表がワールドカップで決勝トーナメントに進んだのは、トルシエ監督が率いた日韓共同開催時と、僕が監督だった南アフリカ大会、そして直近の西野監督時代のロシア大会です。日韓共催では日本はホームでしたから、グループリーグでは強豪国とは当たらない有利な条件だった。僕と西野監督のときはアウェーです。

いずれも、本大会直前の強化試合で結果が出ず、マスコミに叩かれまくって、もうだめだと絶望視されていた。僕も悔しかったですが、選手たちも、悔しさを募らせていた。

でも、だからこそ開き直って「失うものは何もない」という状態になれたんだよ。そしてどうなったかというと、主体的にプレーしはじめた。その結果、カメルーンとデンマークに勝利し、決勝トーナメント進出を果たした。苦しみ、もがいた末に吹っ切れて自立し、それで勝つことができたのです。僕はブラックパワーと呼んでいますが、これはものすごいエネルギーです。しかし、それだけでは長続きしないのも事実。

佐宗:苦しみの末に得られるパワーだけでは、継続性や再現性がないですからね。この本でも「戦略の荒野」では、他から与えられたインセンティブの中で勝ち続ける努力をすることで疲れてしまう、持続可能性について描いています。

岡田:だから、これからも勝ち続けるためには、主体的にプレーできる選手を育てなければならない。つねに主体的にプレーできるようにするには、16歳までにプレーモデルを教え込んでそのあと自由にする、といった指導をする必要があるのではないかと。とにかくそれを実験してみよう、と考えました。

佐宗:主体性のある選手を育てることは、ビジョン思考とも通じるものがありますね。そのビジョンが岡田さんを動かし、現在、オーナーを務められているFC今治につながると。

岡田:Jリーグのチームからもいくつか「育成を全面的に任せる」と声を掛けていただいたのですが、形ができているチームに、それを一度壊すエネルギーを与えてから、そのあとに僕がやりたいことを浸透させていくより、10年かかってもいいから、1からできるところでやりたいと思った。
その頃、今治で先輩が経営している会社の上場を手伝っており、その先輩がサッカーチームを持っていた。そこで先輩にビジョンを話すと、「それは面白い。ぜひやれ」と言ってくれた。

佐宗:VISION DRIVENに物事を動かしていくときには、ビジョンに共感してくれる存在が重要ですが、岡田さんのビジョンに共感し、なおかつ支援してくれる方がいたわけですね。

岡田:そうだね。そうしてチームのオーナーになり、それまで1泊2日で東京と往復していたのが、今治にも拠点を持つようになった。それこそ頻繁に行き来をし、長期滞在をする。そしてある時、町を見ると、商店街を誰も歩いていないし、デパートの跡地が更地のまま放置されている。このままでは、FC今治が成功しても、立っている場所がなくなる。一緒に元気になる方法はないか、ということで、「今治モデル」を作りました。

ビジョンの広がりは苦しい?

佐宗:まずはサッカーで今治のジュニア、ジュニアユース、ユースのチームと一緒になって「今治モデル」というピラミッドを作って「オカダ・メソッド」を共有し、指導者養成などをする。将来的にはこの活動を今治の外へ広げ、サッカー、スポーツを楽しむ環境を創出し、今治全体で長期一貫指導、レベルアップをしていく、というものですね。

このプロセスは、僕が『直感と論理でつなぐ思考法』で語ったビジョン思考を体現していると思います。まさにビジョンからはじめて、それを起点に現実を動かしていく。岡田さんはなぜこういう考え方に至ることができたんでしょうか?

岡田:サッカーだけで集まってくれる人数は限られている。人が集まり、スタジアムが満席になり、活気に溢れ、生き生きとするにはどうすればいいか。そう考えていたら「今治モデル」の構想が生まれ、どんどん広がってしまった。結果的にそうなったというだけなんですよね。だからこそ、ちょっとしんどい(笑)。

佐宗:え、しんどいんですか?

岡田:もちろんだよ。「こんなに大変なら、最初からサッカークラブ経営なんてやらなければよかった」なんて思うこともある。今治と東京を毎月6往復くらいしているから、航空会社からは年間搭乗回数が日本で3位だと言われたよ。カミさんには、「こんな寂しい老後になるとは思ってもみませんでした」と言われるし……。

佐宗:(苦笑)

岡田:いまの会社を立ち上げるときには、「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」という企業理念を作りました。
心の豊かさを大切にする社会とは、売り上げ、資本金、GDPなどという目に見える資本ではなく、知恵、信頼、共感など数字に表せない、目に見えない資本を大切にする社会。たとえば、目の前の利益よりステークスホルダーからの信頼を大切にする、といったことです。

佐宗:岡田さんがおっしゃる無形資産というのは、そういったことを指しているのですよね。でも、岡田さんが掲げられている経営理念というのは、ある意味では、サッカークラブらしくないものだと思うんです。

岡田:そう、それはよく言われる。僕はFC今治のオーナーのほかに野外体験教育や環境教育なども手掛けていて、すべて根っこは同じです。

僕は戦争のない、高度成長の70年という最高の時代を生かしてもらった。では、子どもや孫にどういう社会を残すのか。1100兆円を超える借金、年金崩壊危機、隣国との緊張関係、環境破壊…。このままでいいのだろうか。その想いが行動の基点です。

北海道富良野に劇作家の倉本聰さんが主宰する「富良野自然塾」というのがあって、環境教育を行っていますが、今治にも同様の「今治自然塾」をつくりました。プログラムの1つに、46億年の地球の歴史を460mの道に置き換えて、僕らインストラクターが歩きながら説明する、「46億年地球の道」があります。

46億年前、地球は今の10分の1の大きさだった。道になぞらえると、460メートルの最後の2センチのところでホモ・サピエンスが生まれ、温暖化の期間は0.02ミリです。我々の時代は大丈夫ですが、子どもたち、孫たちの時代には地球が大変なことになるかもしれません。
道の最後に倉本先生が石碑を築き、ネイティブアメリカンに今でも伝わる言葉を刻みました。「地球は子孫から借りているもの」。地球はご先祖から引き継いだものではなく、未来を生きる子どもたちから借りているもの、という意味です。借りているのだから、壊したり、汚したり、傷付けてはいけない。ネイティブアメリカンが今でもそうしたことを伝えているのに、文明人である我々は、今日の株価、今の経済…といったことばかりを語っている。

佐宗:次世代を考えたときに、「自分たち大人がやるべきことをやっているのか?」という問いはとっても共感できます。僕は、よく2030〜2035年の未来ビジョンをつくったりする機会があるのですが、その時間軸は、自分の娘や息子世代が成人して社会に出ていく時期なんですよね。子どもを持って以来、そういう視点をなおさら意識するようになりました。

ホラに近い「妄想」を言う

岡田:「子どもたちの未来」に立脚して考えると、いろいろな答えが見えてきます。すべての生物は命をつなぐために生きている。自分のために生きているのは、人間だけかもしれない。
そうやって社会を変えるのが僕の夢です。FC今治は、10年後にJリーグで優勝する、という目標を持っていますが、それで人が集まっているのではなく、「新しい社会を創ろう」という想いで仲間が集まっている。まずは今治でその夢を実現させたいと思っています。

毎年、日本中の若手社会人、大学生、高校生が参加して、2泊3日のワークショップで新しい社会モデルを創る「Bari Challenge University」というインキュベーションプログラムも行っています。今年は佐宗さんにも登壇していただきます。

佐宗:はい。楽しみです。お話を伺っていて改めて思うのは、岡田さんは、すごく先のことを考えながら今治を見ている、ということですね。

岡田:うん、佐宗さんが言っているとおり、大事なのは「妄想」だと思っている。僕はもともと「妄想家」なんですよ。頭の中に妄想を描いて、それを平気で口に出します。

ただし、僕は妄想では終わらせない。実際、絶対無理だと言われていた5000人収容の「ありがとうサービス.夢スタジアム」を自分たちで建てた。そして次は1万人規模の新しいスタジアムを創ろうと思っています。Bari Challenge Universityでは、そういう「妄想」を持った若者たちが出てきてくれることを期待していますね。

(第2回に続く)