習慣にすれば頭が勝手に片づきだす

 サンディは、バレットジャーナルの次のステップに進んだ。今度は、もっと広い視野で物事を見る手助けになるというテクニックを実施することになった。つまり、来年の抱負を決めるのだ。

「今年の目標」(Yearly Goals)のページには、長年、達成したいと思い続けてきた目標を敢えて書き込んだ──これまでは、なんの進捗も見られなかった目標を。本当はもっと文字を書いたり、イラストを描いたりしたいのに、強迫性障害のせいでうまくいかないのかしら? それとも、忙しくて時間がないだけ? 理由はよくわからなかったけれど、自分のなかにはまだ発揮していない能力が眠っていることだけは、よくわかっていた。

 数週間もたつと、バレットジャーナルを手にして腰を下ろすのが習慣になり、歯磨きのように、なんの苦もなくノートをつけられるようになった。おかしなことに、ToDoリストのチェックボックスに印をつけていくと、毎日しなければならないタスクの数は無限にあるわけじゃなく、限りがあることが実感できて、やる気がでた。それに、請求書の支払いを忘れることもなくなった。誰かの誕生日を忘れてしまい、長いお詫びのメッセージを送ることもなくなった。

 もうひとつ驚いたのは、バレットジャーナルのレイアウトを見ていると、日常生活のこまごまとしたタスクがもっと大きな全体像の一部にすぎないと実感できるようになったことだ。

 その月の目標(Monthly Goals)と、その年の目標(Yearly Goals)のページを見ていると、自分には時間をかけて達成したい目標があり、いまはその目標達成に続く道の途中にいて、日々努力しなければならないことがよくわかった。

 そこで彼女は、ささやかではあるけれど、情熱を傾けられる習慣を日々の生活に加えることにした──毎日、「デイリーログ」〔編集部注:日々のタスクや出来事、アイデアなどを書きとめるログ〕に15分間文字を書き込むという作業を、朝いちばんにおこなうようにしたのだ。朝起きたらすぐにスマートフォンを手にとるのではなく、必ず15分間、自分のための自由時間をつくることにしたのだ。すると以前より1日が長く感じられるようになった。

 バレットジャーナルを習慣にすると、物事を整理して考えられるようになり、落ち着いた気持ちですごせるようになるだけじゃなく、もっと大きな利益が得られることにも気づいた。サンディはそれまでずっと“皮膚むしり症”という症状に苦しんでいた。

 これは肌をいじったり引っかいたりせずにはいられない症状で、彼女はこの癖をずっと恥ずかしく思ってきた。引っかくのはもっぱら指だった。だから指の皮がむけているのを見られるのがイヤで、ミーティングや面談をキャンセルすることもあった。

 痛みのあまり眠れないこともあったし、物を落とすことも多かったし、ごく単純な作業ができないこともあった。たとえばレモンティーを飲むときには、いつも夫か母親に頼んでレモンを絞ってもらっていた。レモンの酸が指に沁みて、ヒリヒリと痛むからだ。

 ところがバレットジャーナルを数ヵ月続けた頃、彼女はキッチンで涙を浮かべていた。両手をしげしげと眺めたあと、思い切ってレモンを絞ってみたところ、指に痛みを感じなかったので感激したのだ。

 バレットジャーナルのページに線を引いたり、文字を書いたりしているあいだは両手を忙しく動かしていたため、肌をむしらずにすみ、指の傷がゆっくりとではあるけれど、確実に癒えていたのだ。彼女はその日を祝して、バレットジャーナルに特別なページを設け、次ページのようにイラストを添えて嬉しい思いを書き込んだ。

自分の人生をコントロールするには、「アナログの避難所」が必要だ