まわりにいちいち反応せず自分で人生の舵をとる

 大慌てで用件をメモして、やっつけるようにして用事を片づけていったという経験が、みなさんにもあるはずだ。こっちのアプリをちょっと使い、あっちのカレンダーをちょっと使う。

 その結果、あちこちに情報をばらまくことになり、付箋に書いたメモ、各種アプリに書き込んだ予定、メールの内容などをかき集めなければならなくなる。フランケンシュタインの顔のように、情報が継ぎはぎになるのだ。

 ある程度までなら、あちこちから情報をかき集めてもおさまりがつくけれど、いつか、その縫い目はほころびる。どの情報をどこに保管したかがあやふやなままだと、あとでその情報を見つけるとき、無駄に時間がかかる。

 ええと、たしかメモを書いたはずだけど、メモ帳のアプリだったかな、それとも付箋だったかな? そもそも、付箋はどこに行っちゃったんだろう? そうして、結局は途方に暮れるのがオチだ。

 頭にひらめいたすばらしいアイディア、「これは覚えておこう」と思った内容、備忘録などを、すぐ迷子になるメモ用紙や時代遅れのアプリに書き留めたところで、結局はどこに行ったかわからなくなってしまう。これでは非効率に非効率が重なるばかりで、処理能力は低下する一方だ。

 でも、こうした事態は避けられる。バレットジャーナルは、あなたの「信頼の置ける情報源」となるようにデザインされている。いや、なにもこのノート術をあがめたてまつろうというわけじゃない。ただバレットジャーナルを活用すれば、考えていたことや覚えておこうとした内容をいったいどこに書き留めたんだろうと、途方に暮れることがなくなるのだ。

 頭のなかにあることを一か所にまとめて保管すれば、たとえ用事が山積みになっていても、優先順位を効率よく決められるようになる。たしかに、あなたに電話をかけてきた人、メールやメッセージを送ってきた人は、すぐに対応してほしいと思っているだろう。だから優先順位をつけずに対処していると、他人からの要求の波に呑まれてしまう。

 すると大切なことに集中できなくなり、無理をしすぎて、結局は自分の夢をかなえるチャンスがなくなってしまう。「成績をあげたい」「昇進したい」「フルマラソンを完走したい」「2週間に1冊のペースで本を読みたい」といった夢がかなわないまま終わるのだ。

 バレットジャーナルを活用すれば、人生の舵をとれるようになる。外部からの刺激や要求にいちいち反応するのではなく、慎重に選んだ重要な問題に積極的に取り組めるようになるからだ。

 さまざまな困難な課題に取り組み、漠然としていた好奇心を有意義な目標に変える方法、そしてその目標を管理しやすい小さな段階に分ける方法を身につければ、効率よく行動を起こせるようになる。

 たとえば、こんなふうに考えよう。今学期、成績をあげるには、どんな行動を起こせばいいのか? すべての教科でAをとりたいのか? ノー。では、問題をもっと細かく考えてみよう。いまの時点で、どの教科の成績が悪い? 次の授業で提出しなければならないものは? 論文。オーケー、じゃあ論文を書くために、なんの本を読む必要がある? その本を図書館で借りてくる──それが、いま、しなければならない最優先の事項だ。

 すでにAの成績をおさめている教科の特別課題は? 単位には関係ないから、対応の必要なし。本書では、あなたの手元にあるのがどんなノートであろうと、それを強力なツールに変えるテクニックを紹介していく。有効であることが科学的に立証されているこのテクニックを活用すれば、貴重な時間とエネルギーを本当に大切なものに集中させ、気を散らせるものを除外していくことができるはずだ。

マインドフルネスで「いま」に集中する

 うわ、「マインドフルネス」って、なんか苦手なんだよね。そう思った人も、ご心配なく。本書における「マインドフルネス」とは「いま」に向ける意識を高めることを指す。もちろん、生産性を高めるのは大切だけれど、バレットジャーナルはハムスターの回し車のなかで速く走れることを目的にしているわけじゃない。

 現代のテクノロジーは無限の情報を提供している。だから、つい時間を割いてしまうものがいくらだってある。すると気が散りやすくなるし、大切な人と本当の意味でつながる機会ももてなくなる。

 たとえば飛行機に乗っているとき、世界は時速600マイルで後方に消えていくけれど、実際のところ、いま自分がどこにいるのかはよくわからない。運がよければ、眼下できらめく大海原や、遠くの雲を引き裂く稲妻がちらりと見えるかもしれない。それでも、自分がいまどこにいるかがよくわからないまま、うつらうつらしたり、無事に着陸できますようにと気を揉んだりするのがせいぜいだ。

 人生という旅で目的地に向かうのなら、もっと賢い旅行者になるほうがいい。そのために、まず、方向性を見さだめよう。いま、自分はどこにいるのだろう? 本当に、この方向に進みたいのだろうか? 違うのなら、なぜそもそも、違う方向に進み続けているのだろう?

 きちんと方向を定め、目的地にたどり着きたいのなら、まず、自分の心のなかを見つめなければならない。

 マインドフルネスとは、覚醒し、目の前にあるものをしっかりと見るプロセスだ。すると、自分がいまどこにいるのか、自分は何者なのか、自分はなにを望んでいるのかを意識できるようになる。

 このプロセスで、バレットジャーナルが役に立つ。手で文字を書くという行為は、ほかのどんなメカニズムよりも神経学的なレベルで意識を「いま」に向ける助けになるからだ(*4)。自分自身を知るには、「いま」に存在しなければならない。

 物事を書き留めることの重要性を提唱しているアメリカの作家、ジョーン・ディディオンは、5歳の頃からメモをとり始めたという。気が散りやすい世界に対する最高の対抗策はノートだと、彼女は考えている。

「私たちは、決して忘れないだろうと思っていたものをも、じつにあっさり忘れるのだ。愛だろうが、裏切りだろうが、忘れるのだ。かつてのささやきも、かつての叫びも、自分が誰であったかも、忘れるのだ……となると、連絡を絶やさないのが、いちばんいい。そして、たぶん、連絡を絶やさないということがノートをとるということなのだ。そして、みんな、あくまでも自分の流儀で、自分のために言葉を保存している。あなたのノートは私の役にはたたないし、私のはあなたの役にはたたない(*5)」(『ベツレヘムに向け、身を屈めて』青山南訳、筑摩書房)

 たとえデジタルが大好きで、デジタル漬けの生活を送っている方でも、なんの問題もなくバレットジャーナルを活用することができる。なにもディケンズの小説の登場人物のように、薄暗い屋根裏部屋で背中を丸め、ろうそくの灯りをたよりに文字をなぐり書きするわけじゃない。

 本書で覚えてもらいたいのは、頭のなかに浮かんだ考えをすばやく、そして効率よく書き留める方法だ。本書を読めば、あなたの生活のスピードに合わせてノートをつける方法がおわかりになるだろう。

 バレットジャーナルを活用し、自問を重ねる習慣を身につければ、日々の雑事に埋没し、人生の目標を見失うことがなくなる。バレットジャーナル・メソッドを実践すれば「いま自分がしていることを、なぜしているのか」を常に意識できるようになるのだ。

(注)
*4 Maria Konnikova, “What’s Lost as Handwriting Fades,” New York Times, June 2,2014, https://www.nytimes.com/2014/06/03/science/whats-lost-as-handwriting-fades.html.
*5 Joan Didion, “On Keeping Notebook,” in Slouching Towards Bethlehem (New York: Farrar, Giroux, 1968), 139– 40.(『ベツレヘムに向け、身を屈めて』ジョーン・ディディオン著、青山南訳、筑摩書房)