くじけそうになる自分を勇気づけ、前に進み続けるために大切にしてきたのは、パッション、ビジョン、アクションだ。

「医師としてのパッションは、後輩の事故に遭って抱いた、あの気持ちです。ケガや病気に苦しむ患者さんをなんとしても治してあげたいという情熱を常に持っています。

 でも、情熱だけでは、夢は実現できません。不可能を可能にするには、何をしなければならないのかを考えなくてはならない。それがビジョンです。そしてビジョンを持ったら次はアクションあるのみですね。

 実際20年前、学位研究が終わった後、僕はアメリカに留学しました。整形外科で脊椎・脊髄外科医としてのベースを築いたものの、脊髄損傷を治す糸口さえ見つからなかったからです。日本にいたんじゃ、いくら一生懸命やっても治せないと判断し、再生医療の研究をしている大学を探しあて、手紙を書き、面接を受けに渡米しました。ツテも何も、まったくなかったのに、無謀ですよね(笑)」

 そんな中村先生も一度だけ、もう研究をやめようと、くじけかけたことがあるという。

「僕たちは当初、中絶胎児由来の神経幹細胞を使用して、移植治療を行う戦略を立て、研究を進めていました。でも2006年、倫理的問題のため、断念せざるを得なくなったのです。万事休すだと思いました」

 ところが、事態は思いがけず好転する。

「同じ年、山中伸弥教授がiPS細胞を見つけてくれたのです。僕らにとってはまさに、天が下ろしてくれた“蜘蛛の糸”でした。あの細胞のおかげで、新たな展開が生まれ、それが今日につながっています」

人間の仕組みは発電所と一緒
リハビリなくしては再生しても歩けない

 治療の希望が見えてきた2006年以降、毎日診察室で患者と向き合う臨床医でもある中村先生が注力してきたのは、リハビリの指導だ。そこが研究主体の医師とは大きな違いである。

「人間が動く仕組みは発電所と一緒。大脳という発電所から出た命令が、送電線を通って脊椎という変電所に送られます。そこからさらに送電線が出て、手足の筋肉とかをモーターで動かすのです。

 だから脊髄を損傷し、送電線が切れた状態になるともう、動かせません。それを僕らはもう一度つなげようと研究してきたわけですが、つながったとしてもモーターがさび付いていたら、体は動かないんですよ。関節が硬縮していたら動きっこない。そうなった患者さんには、残念ながら再生医療を行うことはできません。せっかく治療法ができたのに、受けられないなんて、もったいないですよね。

 だから脊髄損傷の患者さんたちには、今からでも遅くないからリハビリをしっかりやってください、頑張ってくださいと言っています」