天野浩(ノーベル物理学賞受賞)
――日本の研究力の低下についてどう見ていますか。
日本の研究開発費で一番多いのは企業ですが、企業の論文が減っているのは確かです。知的財産戦略であえて論文を出さなくなっているのかもしれませんが、株主が強くてもうけを出さなくてはいけないので、昔のようにいろいろな研究に投資できなくなっていることもあるでしょう。
――企業が基礎研究をできなくなってきているということですか。
そうですね。私は、基礎研究とか応用研究の定義っていまだに分からないのですが、将来何の役にも立たない研究なら企業で続けるのは難しいけれど、ある程度出口が見える基礎的な研究は大事です。
最近は、なかなか10年とか30年の長期で研究をやれる企業は多くないので、その意味でアカデミアの役割は高まっていると思います。
だから、そうした研究は大学と一緒にやりましょうということで、企業と大学が一つ屋根の下で一緒に使えるクリーンルームと研究棟を造ろうと考えました。まずはハコを造って、企業に参加してもらう形です。まだまだ産学連携でやれることはたくさんあるので、企業にはもっともっと日本の大学を信頼していただきたいと思います。
――青色LEDの材料の「窒化ガリウム」研究で産学連携コンソーシアムを設立しましたね。
われわれが考えている未来があります。米国のゴールドラッシュで一番もうかったのは金の採掘者ではなく、ジーンズを売る人と鉄道を敷いた人です。これからのAIやIoTの世界でも、同じことが起こると思っていて、一番もうかるのは、AIやIoTを動かすエネルギーになるのではないでしょうか。
電気を効率よく使って、電気を無線で飛ばす技術は、窒化ガリウム半導体でしかできないということは学術的に分かっているので、いま頑張れば海外を出し抜くことができると思います。
そこで企業には、ぜひ動いてもらって一緒にやりたい。いま研究に投資したら企業ももうかるはずなので、まずわれわれ大学が動こうと思いました。
――産学連携の新しい形ですね。日本の研究力の底上げにも必要ですか。
まさにそうです。産学連携を本格的にやったのは初めてですが、勉強になることばかりです。こうした産学連携は絶対にやらないとと思っていますし、やれば面白い。こうした元気な取り組みを日本全体に広げていきたいです。
今後は、企業と企業も連携して一緒にやらないといけないので、大学が企業と企業の間の接着剤として「産学産連携」もやっていきたいと思っています。それがコンソーシアムをつくった大きな狙いです。