2019年5月のマネーストック

M2ベースの通貨供給量、月中平均残高の伸び率(前年同月比)  出所:日本銀行

 黒田東彦・日本銀行総裁は、6月20日の記者会見で、「物価目標に向けたモメンタムが損なわれるようなことがあれば、ちゅうちょなく追加緩和を検討する」と述べた。米国やユーロ圏でも、貿易摩擦など国際経済を巡る不確実性を背景に、緩和バイアスを急速に強めており、それに呼応した動きといえる。だが、日銀には、もはや効果のある追加緩和策はほとんど残っていない。

 黒田総裁時代の金融政策を、マネーストックの動向から見てみると、就任前には対前年比2~3%の伸びだったが、就任後には3~4%に上がった。それが最近では就任前の水準に戻っており、5月は2.7%だ。異次元といわれるほどの金融緩和を実施したにもかかわらず、マネーストックの伸びには大した影響を与えなかったのだ。マネーストックは経済活動全体の動きを包括的に反映しているものなので、その間の全般的な経済活動もさほど活発化していなかったことがうかがえる。

 こうした中、マクロ政策の軸足を財政政策へ移す議論や財政・金融政策の協調を求める声が高まっている。黒田総裁も連携姿勢を見せており、「国債を増発して歳出を増やしても日銀が金利上昇を抑えているので、暗黙のうちに協調的な行動が取られる形になっている」という趣旨の発言をしている。

 ただ、これには違和感がある。そもそも日銀は、物価目標達成にとって最適な政策を独自の判断で決めるものだ。ところが今は独立性よりも、政府との政策協調を強調している。日銀としては、有効な追加緩和策が限られている中で、現行の金融政策の副次効果──財政支出のファイナンスをサポートする効果──をプレーアップするしかないのだろう。

 今後、景気対策として財政政策の役割が強まることになろうが、信頼できる財政再建計画なしでは国民の将来への不安は消えない。人手不足の問題もあり、財政政策の有効需要効果も一時的で期待外れになりかねない。政府はバラマキをやめて、民間部門が自発的な活動を活発化できる環境整備に資金を投入すべきだろう。そうすれば、金融緩和効果も強まろう。

(キヤノングローバル戦略研究所特別顧問 須田美矢子)