「してやったり」
香港問題は目立たず
次の成果がG20の合意内容に関するものである。筆者自身、毎回G7、G20が迫るたびに中国の政府官僚や体制内学者と議論することでもあるが、近年、彼らはこれらの国際会議において(1)世界経済低迷の原因を中国経済、特に過剰生産能力、国有企業問題、構造改革の遅延、経済成長の低迷などに見出され、名指しで批判されること、(2)南シナ海や東シナ海における自らの政策や動向を「拡張的行動」「現状変更」「軍事化」といった文言で、名指しで批判されること、(3)人権問題でその当事者として槍玉に挙げられること、そしてこれらが合意文書や共同声明に盛り込まれることを極度に警戒してきた。
今回G20サミット終了後発表された「大阪宣言」(https://www.g20.org/pdf/documents/jp/FINAL_G20_Osaka_Leaders_Declaration.pdf)を読む限り、そういう事態にはならなかったようだ。過剰生産能力は議題には上がったものの、中国が名指しで批判されることはなく、南シナ海や人権問題に関しては宣言そのものにすら含まれていない。特に後者に関しては、昨今、香港情勢がこれだけ荒れている状況下で(参照記事:香港デモ現場ルポ、習近平が「香港200万人抗議」を恐れる理由)、G20の主要議題として扱われなかったことは、習近平にとっては「してやったり」で、外交当局者は自らの成果だと認識しているに違いない(筆者注:日中首脳会談では、安倍首相から習主席に対して、引き続き「一国二制度」の下、自由で開かれた香港が繁栄していくこと、いかなる国であっても、自由、人権の尊重や法の支配といった国際社会の普遍的価値が保障されることの重要性が指摘されており、サミット開催期間中に行われた2ヵ国間協議では議題として上がったケースもあった)。
トランプ大統領板門店訪問で
生じた習近平の懸念
最後に外交的課題であるが、それは北朝鮮問題である。習近平はG20サミットでトランプと会談をする直前に平壌へ飛び、初の公式訪問を実行した上で金正恩委員長と会談をしている。北朝鮮情勢安定化への関与、外交的孤立への懸念と対策、対トランプへの外交カードの準備といった思惑があったのだろう。
米中首脳会談において、習近平はトランプに金正恩との会談を続けることを支持した。それが朝鮮半島の安定化と非核化に資するという立場を踏襲している。とはいうものの、トランプのツイートに端を発し、そこから電撃的に板門店での初の米朝首脳会談が実現し、自らがいまだ通商問題で「対抗」しているトランプが、米国の現職大統領として初めて北朝鮮の地を踏んだ経緯を、習近平は複雑な心境で眺めていたに違いない。北朝鮮情勢が自ら掌握できない状況下で推移し、同問題において主導権を失うなかで、南北融和や米朝接触が進み、北朝鮮問題解決の実質的キーマンが北朝鮮・韓国・米国の3ヵ国だという国際世論と地政学的局面が形成されてしまう事態を、習近平は懸念している。
この懸念は、電撃的なトランプの北朝鮮訪問をきっかけに、今後より一層、前のめりで日朝首脳会談の実現に向けて動くにちがいない。日本の安倍政権にとっても、他人事ではなかろう。
(国際コラムニスト 加藤嘉一)