1つに、物議を醸してきた米中貿易戦争を強く意識している点である。発展の段階が異なること、故に違いや摩擦が生じることは正常であることを強調することで、関連諸国の貿易戦争への懸念をなだめようとしている。
2つに、貿易戦争において米国に対して一歩も引かないという立場を取ってきた中国共産党であるが、そうはいっても米国との国力や影響力のギャップを考慮したとき、やはり基本的には米国との関係を安定的に管理したいという点である。ここには、中国国内経済への悪影響も懸念されている。
3つに、米国との関係を安定的に管理したいとはいうものの、習近平の国内的メンツ、中国共産党としての対外的野心、大衆の間で高まるナショナリズムなどを考慮したとき、米国という超大国と対等な地位で勝負するのだという明確な意思が表れている点である。
上段落における「相互に尊重」「平等に協商」という表現は、まさに中国が目下、米国との貿易戦争を戦うなかで形成してきた基本的立場である。中国は、相手国に自らの核心的利益を尊重させ、平等な立場で交渉を行うという「大国」としての立場や様相を、ますます全面的に押し出してきているということである。その意味で、今回のG20においては、中国の対米意識が色濃くにじみ出ていた。
習近平がG20を通して得た
2つの外交的成果と1つの課題
一方で、冷戦終了後、世界で殆ど残っていない社会主義国家であり、その国力からしても米国と相当程度の開きがある現状下において、中国とて一国だけで米国に挑んでいけるとは考えていない。ここで出てくるのが、習近平政権が発足して以来展開されてきた「お友だち外交」である。アジアインフラ投資銀行(AIIB)、一帯一路、新興国や途上国と手を組んで主催する各種国際会議(筆者注:上海協力機構、アジア相互協力信頼醸成措置会議、中国・アフリカ協力フォーラム等)を通じて「お友達」を作り、引き連れながら米国や西側が主導してきた国際秩序・システムを自らに有利な方向へ持っていこうとする外交戦術を指す。
今回のG20サミットを通じて、習近平は「20強のイベントに参加した」(王毅外相兼国務委員)が、お友達外交を象徴する3つの多国間外交として、(1)中ロ印三国首脳会談、(2)BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)首脳会談、(3)中国・アフリカ首脳会談に出席している。(1)、(2)における習近平の以下の主張は、まさに昨今の中国共産党指導部の思惑と立場を露呈しているといえる。
「昨今、保護主義、一国至上主義の台頭はグローバル情勢の安定に対して深刻な影響を与えている。と同時に、新興市場国家と広範な発展途上国が生存のために依存してきた国際秩序に、軽視できないマイナスの影響を及ぼしている。中国、ロシア、インドは今こそ然るべき国際的役割を担うべきであり、3ヵ国及び国際社会の根本的、長期的利益を守るべきである」
「BRICs諸国は自らのことにしっかり取り組み、発展の強靭性と外部からのリスクに抵抗するための能力を増強すべきである。我々はBRICs経済、政治的安全、人文交流という3つの分野における協力をバランスよく推進すべきである」
これらの主張からは、(1)中ロ印と西側主導の秩序を調整していく(筆者注:中国はこの狙いと行動を「国際関係の民主化」「世界多極化」と称し、G20サミットを通じて随時呼びかけていた)ための戦略的枠組みだと捉えていること、(2)BRICsがそのための補強的・延長的枠組みになり得ること、(3)それらの枠組みをあわよくば“ブロック化”し、その過程で「政治的安全」、すなわち西側、特に米国の自国への政治的浸透(筆者注:いわゆる「和平演変」がその典型)を防止しようとしていることが伺えるのである。
上記以外に、習近平にとって外交的成果といえるものが2つ、外交的課題といえるものが1つ残ったと筆者は考えている。
最初の成果が対米関係である。本連載でも随時検証してきたように紆余曲折を経たが(参照記事:劉鶴・国務院副総理が対米交渉「決裂」後に語った本音)、少なくともトランプ大統領との会談にこぎつけ、米中首脳が比較的良好な関係を保持している現状をG20という国際舞台でアピールできた意味は小さくない。それだけではなく(今後どう状況が展開するかは未知数ではあるものの)、トランプ側から「米国はこれ以上、中国製品に対して追加課税をしない」という「確約」を得たこと、米国企業による華為技術(ファーウェイ)への輸出禁止を一部解除することの2点を、今回の米中首脳会談で達成できたとして、習近平政権は自国世論に対して大々的にプロパガンダしている。
今後、再び交渉が決裂したり、米国側が「確約」を変更してきたりするリスクは十分に考慮していると思われるが、それでも習近平政権としてこのタイミングで対米貿易交渉の進展を内外に示したかったのであろう。