――筆者のグレッグ・イップはWSJ経済担当チーフコメンテーター
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貿易摩擦による中国経済への打撃が直近のデータで露呈したが、これは一段と深刻な景気低迷という症状の一つにすぎない。つまり、中国の国家主導による成長モデルが失速しつつあるということだ。景気後退(リセッション)や危機が差し迫っている訳ではないにしても、長期的な影響は深刻だ。中国は方向性を変えない限り、決して豊かになれないかもしれない。
4-6月期(第2四半期)の中国国内総生産(GDP)は6.2%増と、伸びは約30年ぶりの水準に落ち込んだ。中国の経済指標がインフレや為替、購買力をどのように調整しているかもにもよるが、1人当たりの年間GDPが1万4000~1万8000ドル(約150万~190万円)の中所得国にとっては、まだかなり良い水準にある。また、中国のGDPは主要国の間でも最も高い。
だが異なる観点から見ると、素晴らしい内容とは到底言えない。まず、政府統計はおそらく、実態よりもかなり良い数字だろう。ジョンズ・ホプキンズ大学の胡穎尭氏が共同執筆した夜間の電気使用に関する分析によると、1人当たりの所得は報告されている水準を25%下回っている可能性がある。シカゴ大学の謝昌泰氏および共同著者3人は、税収など他のデータから、中国の成長率が2010~2016年に報告された水準を1.8ポイント下回っていると結論づけている。
次に、これは中国が模倣したいと考えている経済には匹敵しない。台湾、韓国、日本はいずれも貿易や投資を開放し、数十年にわたり極めて高い成長をおう歌した。その後、中所得国に達する(日本は1970年代初頭、台湾と韓国は1980年代と1990年代初頭)のに伴い、成長は鈍化した。理論上は、中国は高度成長をさらに長く持続させることが可能だ。なぜなら米国など先進国は、テクノロジーの最先端領域を広げており、中国にとっては追いつく余地が一段と生じたためだ。
だが実のところ、中国は他国よりもより早い段階で減速しているもようだ。現在の中国の所得水準に達した後、台湾ではさらに10年間にわたり7.5%の成長率を維持し、韓国では6.3%、日本は 4.7%の成長が続いた。しかし中国に関しては、「現行の政策環境において4%を超える成長率を維持するのは極めて困難」になるとトロント大学の中国経済専門家ローレン・ブラント氏は指摘する。