トップは「失敗が許される範囲」を明示する

――職員会議の結論まで任せるわけですね?

工藤 はい。教員の間で、「自律 尊重 創造」をベースに質の高い対話が成り立っていると判断できれば、その結果導き出される結論も信頼できます。ただ、みんなに議論してもらうときには、失敗例を教えるようにはしています。こうなったらダメだよねという失敗例を伝えて、こうならないような方向を考えてくださいと促すわけです。

 たとえば、教員のやる気が高まれば高まるほど、多くの仕事をやろうとしてしまうものです。やる気があるのはいいことなのですが、その結果、教員の仕事量が増えすぎて、結果として子どもと向き合う時間がなくなってしまうことがある。これでは本末転倒ですから、そうなってはいけないという話をするわけです。

――たしかに、事前に失敗例を把握しておけば、同じ轍を踏む確率は減りますよね。

工藤 ええ。ただし、それでも失敗することがあります。全員で上位目標を共有しながら、それを達成するための手段を徹底的に議論をしても、結果的にその結論がズレていたということはあります。しかし、徹底的に考えたうえでの失敗であれば、それは大きな学びです。失敗からしか学べないことはたくさんあります。ですから、大切なのは、失敗が許される範囲で、トライできる組織にすることです。

 そして、「失敗が許される範囲」を明示することは経営者(校長)の役割です。「こういう失敗をしてはいけない」と失敗例を示すことで、「やってはいけない失敗」を防ぐ努力は欠かせません。

 また、教員たちには、常日頃から、「第一に子どもにとって、第二に保護者にとって望ましい選択であることを忘れてはならない」と伝える必要があります。「教員にとって望ましい、学校にとって望ましい」は、そのあとに考えることです。ここを間違えなければ、大きくズレたことをするおそれはなくなるはずです。

――なるほど。校長が「失敗が許される範囲」を明示して、その範囲内で教員に自由にチャレンジしてもらうわけですね?

工藤 はい。そのうえで、すべてのトラブルの責任を校長が負うことが決定的に重要です。もちろん、「校長が全責任を負う」と口で言うだけではダメで、実際にトラブルを校長が全面的に受け止めて解決しなければなりません。

学校で「心を一つにしよう」というスローガンを掲げてはいけない“深い理由”

 僕はトラブルには強いんです。だからこそ、教員たちは僕のことを早いタイミングで信頼してくれるようになったのではないかと思っています。僕が麹町中学校に赴任して以来、保護者からのクレームは何回もありましたが、教員が対応できない場合には、必ず僕が先頭に立って対応します。

 そして、保護者と徹底的に話し合った結果、学校の大応援団になってくださった方もたくさんいらっしゃいます。そうした姿を見ることが、教員にとってすごい安心感につながったのではないでしょうか。だからこそ、彼らも失敗をおそれずに、前向きなチャレンジができるようになったのだと思います。