人は協力してくれなくて当たり前。そのときどうする?

――つまり、教員のみなさんが「自律 尊重 創造」という上位目標をもとに、対話を重ねて試行錯誤をすることで学校改革が進んできたわけですね?

工藤 そうですね。それが改革の最大のエンジンです。まぁ、それ以外にも、いろいろとコツはありますよ。たとえば、言葉の使い方。言葉の使い方を工夫するだけで、簡単にものごとが進むことがあります。相手の意見がおかしいと思っても、ストレートに「おかしい」と言うと対立が生まれて、ものごとが進まなくなってしまいますから、そんなときには、みんながOKと言える言葉を探すんです。

 たとえば、こんなことがありました。
「あいさつ運動」というのがありますよね? 毎朝、教員が校門に立って、登校してくる生徒たちに「おはよう!」と声をかける。なんの疑問も抱かずにルーティンになっている学校もあるでしょう。僕はあれはずっとやめるべきだと思っていたんです。

――どうしてですか?

 もちろん、あいさつの習慣を身につけるのは大事なことなんですが、とは言っても、世の中にそんなシチュエーションないじゃないですか? しかも、教員にとっては勤務時間前から働かなければならないわけで、働き方改革にも逆行します。にもかかわらず、「この学校は元気にあいさつできていていいですね」なんて言われたりするので、誰も「やめたい」と言えない雰囲気になっているんです。

――たしかに、校門であいさつする必要はないですよね。校内ですれ違ったときにあいさつすればいい。

 そう。だから、僕は、麹町中学校の校長になったときにすぐやめることにしました。ただ、教員の働き方改革のためにやめる、というのでは納得は得にくい。そこで、もともと僕は、あいさつ運動は、不登校気味の生徒にとっては苦痛だったんじゃないかと気になっていたので、「不登校気味の子がみんなに“おはよう”“おはよう”っていわれたら、校門を通りづらくないかな? 僕だったら嫌だと思う。あいさつ運動が終わってから登校しようって思うんじゃないかな?」と言ったら、「たしかに、そうですね」ということになり、あっさりと認められたのです。

 もし、「あれは意味がないからやめましょう」と言ったら、あいさつ運動をがんばっていた教員は、「いえ、こんなすばらしい意味があります」と反発するでしょう。ところが、みんなが「なるほど」と思える言葉を探り出せば、そのような反発を避けることができるわけです。こうした知恵も、改革を進めていくうえでは意外と大切だと思いますね。(つづく)

工藤勇一(くどう・ゆういち)
千代田区立麹町中学校長。1960年、山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て、2014年から千代田区立麹町中学校長。教育再生実行委員、経済産業省「未来の教室」とEd Tech研究委員等、公職を歴任。公立中学でありながら先進的な教育をとり入れ、今最も注目される教育者。著書に『学校の「当たり前」をやめた。〜生徒も教師も変わる!公立名門中学校長の改革』(時事通信社)。