「上位目標」が改革の原点でありエンジンである

――「自律 尊重 創造」という教育目標のもと、学校で集団生活を送ることで「生きる力」を育成するわけですね?

工藤 そういうことです。大事なのは、この教育目標(上位目標)が“お飾り”でないこと。本当に達成するべき目標として、常に意識しておくことです。上位目標を実現するためにこそ改革を行うのであり、上位目標を全員が大切にするからこそ、改革を空中分解させないことが可能になるのです。

 実際に改革を進めていくと、教員たちの方向がずれたり、教員同士がぶつかったりすることは多々あります。たとえば、定期テストをやめて単元テストをやろうというときにも、いろいろな意見や問題点が出ましまた。それは自然なことであり、決して悪いことではありません。

 大切なのは、みんなの意見が食い違う時は、必ず上位目標に立ち戻って、進もうとする方向をそれに照らし合わせ、目標に合致しているかどうかをみんなで徹底的にディスカッションすることです。そして、どこまで合意ができていて、どの点で食い違っているのかを対話を通して細かく検証していき、みんなが納得できる結論を出す。このプロセスがとても重要なのです。

――みんなが腹の底から納得しなければ、実行力が伴わないですものね?

工藤 そうです。間違えてはならないのは、「みんなが納得できる結論を出す」ことと「折り合いをつける」ことは全く違うということです。お互いの主張の「中間点」で折り合いをつけるのではなく、あくまでも上位目標を達成するためには何が正しいのかを考える。ここは妥協することなく、しっかりと対話を重ねる必要があります。

 それが、学校運営や学校改革を進めるうえで最も重要なことですし、教員自身が、この対話のプロセスを体験していなければ、このプロセスを生徒たちに教えることができません。教育の根幹と言ってもいいことなんです。

――なるほど。ところで、その対話のプロセスで、校長である工藤先生はどのような役割を果たされていますか?

工藤 あまり何もしないように心がけています。絶対にやってはならないのは、校長である僕が結論を押し付けることです。僕の役割は、教員たちの対話が上位目標からそれていないか、対等な対話がなされているかをチェックすることです。それらから逸脱したときには介入する必要がありますが、結論に至るまでのプロセスは当事者たちに任せるのが基本です。そうでなければ、主体性は育たないですからね。

 僕は今、この学校が6年目になりますが、5年前はあきらかにトップダウンの学校でした。でも今は、教員たちが自走しています。職員会議も、15分で終わることもあれば、2時間かかることもある。論点がなければすぐに終わり、必要であれば徹底的に話し合うのです。その判断も教員たちに任せています。

 じっくりと議論をするときには、最近はもう、僕は途中で抜けてしまったりすることもあります。上位目標に戻って手段を決めると言うプロセスを教員がみな了解していますから、それで話し合って出した結論であれば、もうOKだから、と。