超テクノロジー時代には
意思ある楽観主義者になれ

 リブラは2020年前半のサービス開始を目指しています。前述したようにリブラを管理するのはリブラ協会であり、協会はフェイスブック以外の企業や非営利組織などで構成します。フェイスブックはリブラの発行や裏付け資産の管理を自由にできません。金融業界からみると決済・送金ビジネスのうま味は手数料です。しかしリブラの場合は、お金のやり取りに伴うコストと手間を下げ、途上国のアンバンクドな人にも使ってもらえるようにすることを大きな目的としています。

 しかし前述のiモードの例のように、お金がなめらかに流通するようになると、それと交換できる実物の価値も盛んに流通することは確実です。想像してみましょう。インドのお茶農家とビデオチャットでやり取りして、ごく少量しか採れない最高級の茶葉を譲ってもらう。日本では学べないアフリカの少数民族の言葉を、スマホ上で教えてもらう。こういった希少な価値に対して、「ありがとう!」というメッセージとともにリブラですぐに対価を払えるわけです。こういう無数の小さな価値交換の積み重ねで大きな市場ができたら、フェイスブックは寺銭を取ってもいいですよね。

 アマゾンが好例であるようにインターネット上では、リアルの販路で埋もれがちだったマイナーな商品やビジネスが、きちんと需要にマッチングされます。ITガリバーについては、その圧倒的な規模で市場を歪めているという批判があります。フェイスブックのリブラについても、もし24億人がみんな使ったら、既存の金融ビジネスを淘汰してしまうという懸念があるようです。この批判・懸念はまったく筋違いとは思いませんが、それと同時に、これまで埋没していた小さな存在に脚光を当てる効果があることも見落としてはいけません。むしろ新しい商売が生まれ、個人や企業の信用度もデジタルデータで可視化されれば、融資や保険の新しい金融市場も生まれるのではないでしょうか。

 僕はフェイスブックのリブラがいいこと尽くめなんて思っていません。地殻変動が起きる時には、副作用のトラブルも甚大です。それに、フェイスブックが計画する通りに立ち上がるかどうかも分かりません。

 ただ、既存のお金の流通にハードルがある以上、フェイスブックでなくても誰かがグローバルなデジタル通貨を作るのは確実です。この大きなイノベーションを前にして、絶対重要な考え方がひとつあります。ディープ・オプティミズム、つまり新しい物事を前にしたときに「こいつの出現によって、何かいいことが起こるだろう」という明確な意思を持って臨む楽観主義です。その楽観主義を持った上で、副作用について深く考え続けるのが、超テクノロジー時代の正しい姿勢だと私は思います。まずリスクを眼の前に並べて「リスク要素が全部クリアにならない限りは止めておこう」という悲観主義では、ビジネスも社会も前進しません。

(IT評論家 尾原和啓)