◇考えるとは何か?

 著者はここ数年、「考えるとは何か?」という問いに取り組んでいる。この問いは、次の3つのプロセスに分解できる。「いかにして考え始めるのか」「いかにして考えを進めるのか」「いかにして考えをまとめるのか」である。

 これらはすべて「How(いかにして)」から始まっている。だが、「How」の前には、「What(○○とは何か?)」という大きな問いがある。科学は「What」から問い始め、それを「How」という形式に変え、考えを進めていく。「○○とは何か?」「いかにして……」の順で考えを進めると、これまでとは違った発想を展開しやすい。

◆問い続ける達人たち
◇考えを深めるには「制限」が必要

 ここからは、著者と「問い続ける達人たち」との対談内容と、達人たちの思考プロセスの一部を紹介していく。

 まずは鬼才として知られる数学者、長沼伸一郎氏だ。長沼氏は、近代の物理が難しくなりすぎて、多くの人が証明を追いかけるだけで精一杯であることに問題意識を感じてきた。そこで、これまでになかった教科書『物理数学の直観的方法』を書き、読者に直感的な理解を促そうとした。それは30年近くにわたってロングセラーとなっている。

 長沼氏は「考えること」においては「制限」が重要だと答えている。広すぎる問題を考えるときは、いったん制約のあるところで考えてみて、それを拡大するのがよいという。

 今後、人工知能が無限に発達したならば、人間の天才とどちらが勝つか。長沼氏は、その最終的な対決を数学的に予測しようとしている。人工知能の進化により、「人間は何をしても負けるのではないか」という敗北感が広がっている。そんな中、自分で考える訓練を積んだ天才が、数学的にコンピューターに勝つ余地が、最後まで残るとしたらどうか。「人工知能絶対勝利」の予測が根底から覆ることになる。これを示すことは世界的にも求められているはずだと、長沼氏は考えているのだ。