くまざわ書店の強みから飛び出す勇気
激戦区で生き残るために必要なこと
——欲しい商品を当たり前に買える店をつくるうえで、難しさとは何でしょうか?
山本 くまざわ書店は中小規模の店舗が多いため、発売から早い段階で品切れを起こしやすいという課題があります。高輪店にいたときも、近隣で最も売上の良い競合店には大量に並んでいる商品が、配本では入荷しないということもありました。
それでも、最終的にチェーンとしての売上を比較したとき、最も売上が良いのはくまざわ書店チェーンだったというケースがあるので、商品部との連携はとても大きな武器になっていると思います。ただ、その一方で、他店舗と客層の異なる大手町店に限って言えば、商品部からの情報に頼りすぎてはいけないという危機感も持っています。
——そのような危機感を抱いたのには、何かきっかけがあったのでしょうか?
山本 『ザ・ラストバンカー』(講談社)を売っていたときです。店舗に送られてきたダイレクトメールをたまたま見ていたとき、「あれっ?」とそこではじめて大手町店では外せない商品が発売されることに気がつきました。すぐに入荷してもらったため、結果的に期待通りの冊数を売ることができましたが。
——大きな失敗をしていないにもかかわらず、そこまで印象に残っている理由は何でしょうか?
山本 配本されてすぐ、近隣大型書店を見てみると当たり前のように『ザ・ラストバンカー』がたくさん置いてあった光景を忘れることができません。最初の2週間が勝負になるうちの店にとって、そこを逃すと総売上冊数は半分以下になってしまいます。このとき、はじめて「怖い!」と思いました。
——大手町のように情報に敏感なお客さんに太刀打ちするのは大変ですよね。
山本 いつも一杯いっぱいです(笑)。他店舗でも「新聞広告を見なさい」「書評に取り上げられた書籍を見逃すな」と言われていましたが、大手町店ほどその効果が反映される店舗はないと思います。実際は、広告だけではなく、事前に中身の情報まで仕入れているお客様もいると思います。
たとえば、『メルトダウン』(講談社)は発売前からたくさんの問い合わせをいただいていました。「大手町界隈の話でしょうか?」と出版社に尋ねたら、「調べたところ、○○ページから東電への融資の話が掲載されています」と。なぜお客様が事前にここまで知っているのか、と驚きました。