もういやっ、こんなアメリカって(笑)ということもあります

――差別というのは、結局、人が人を、という瞬間的な場面において目の前に現れますからね。「何人だから」「何色だから」ではなく「あなたと私」になって、そこに良い関係性ができたときに、何かが変わりますよね。

大江 この前驚くようなこともありました。

「君の演奏は素晴らしかった。ウィントン・マルサリスだってサポーターがいた。私が君に
何かしてあげられることがあるかな」と言ってくれる人が現れたのです。

 こんな風に誰かに声をかけてもらえることも起こるわけです。

――いい話ですね。アメリカっていう感じがします。

大江 ね、人種差別の根も深かったり、コネクションがないとなかなか社会自体に入り込んでいけなかったりと、もういやっ、こんなアメリカって(笑)と思うこともしょっちゅうあります。だけどブルックリンからマンハッタンを眺めると、そこにはものすごいスカイスクレーパーが見えるわけです。諦めずに自分の目標を決めて進めば手を差し伸べてくれる人もその中にはいるわけです。

 そういうことをこの10年という時間の中でほんの少しでも経験できていること、僕は本当にラッキーな人間だなって、いつも感謝してます。

【大江千里インタビュー3】ニューヨークでインディペンデントでピアニストであるということ

大江千里(おおえ・せんり)
1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー。
「十人十色」「格好悪いふられ方」「Rain」「ありがとう」などのシングルがヒット。
2008年ジャズピアニストを目指し渡米、NYのTHE NEW SCHOOL FOR JAZZ AND CONTEMPORARY MUSICに入学。2012年、大学卒業と同時に自身のレーベル「PND Records & Music Publishing Inc.」を設立。同年1stアルバム「Boys Mature Slow」でジャズピアニストとしてデビューを果たした。
2015年には、渡米からジャズ留学、大学卒業までを記した著書「9番目の音を探して」を発表。2016年夏、4枚目にして初の全曲ヴォーカルアルバム『answer july』を発売。
2018年1月に発売した「ブルックリンでジャズを耕す」では、海外で起業するその苦闘の日々を軽やかに綴っている。
2018年にはデビュー35周年記念作品『Boys & Girls』が大ヒットを記録。
現在、ベースとなるNYのみならず、アメリカ各地、南米、ヨーロッパでライブを行いながら、アーティストへの楽曲提供やプロデュース、執筆活動も行っている。アメリカのSony Masterworksから「Hmmm」デジタル版が発売された。
「senri gardenブルックリンでジャズを耕す」で、ジャズマンの日常を綴っています。
PND RECORDS オフィシャルサイト
日本盤「Hmmm」スペシャルサイト