「眠る力」も加齢とともに衰える
「なかなか眠れない」「夜中に目が覚める」「熟睡した感じがない」といった睡眠トラブルは、中高年を過ぎた人なら誰もが一度は経験しているのではないでしょうか。
こうしたトラブルの最も大きな原因は、老化による「睡眠力=眠る力」の衰えです。年を取ると体力が低下するように、睡眠力も低下してしまうのです。睡眠力は10代でピークを迎え、その後、50代を境に低下します。
それは、年を取るとともに睡眠中枢といわれる脳の松果体(しょうかたい)が衰えて、睡眠ホルモンである「メラトニン」というホルモンの分泌量が減るからです。しかし最近では、40代から不眠に悩む人も増えてきています。
私の患者さんの例をご紹介しましょう。
ネクタイにスーツ姿の男性がドアを開けて入ってきました。そして音を立てないようにゆっくりドアを閉めると、頭を下げます。患者は、田中正一さん(47歳・既婚)。ドアの閉め方からも、周りを気にする元来、真面目なタイプの人のようです。
田中さんは、大手メーカーの営業課長。上にも下にも気を遣わないといけない中間管理職で苦労が絶えないのか、疲れているように見えます。促されて椅子に座った彼は、安堵したのか、ネクタイをゆるめて「ふーっ」と大きく息を吐き出しました。そして、はっと気づいたように「すみません。入ってきてすぐにネクタイを緩めるなんて」と早速、謝りました。
「今日はどうして相談に来られたんですか?」との私の質問に、「不眠症じゃないかと思っているんです」と答えます。
「なかなか寝つけないですか?」
「はい」
「睡眠中によく目を覚ましますか?」
「はい」
「よく眠ったという感覚がないですか?」
「はい。私は不眠症ですよね?」
田中さんは、本当に不眠症なのでしょうか?