コンペは「チャンピオンリーグ」なる異色の形式で行われた。普通のコンペは参加者が1、2回のプレゼンテーションを行って結果が出る。対して、チャンピオンリーグは勝ち抜き戦。ワークショップが複数回開催される。
村尾らの日建設計は、現地の設計事務所とタッグを組んでチームを編成。対戦相手は世界中から集められた精鋭25チームだ。スタジアム設計で実績がある著名な設計事務所が幾つもあった。ここから本選には8チームが選出された。
日建設計は海外での設計実績を持つが、これほどまで世界的に注目度が高い案件のコンペに参加することに高揚した。カンプ・ノウは座席数10万5000席(改修後)で欧州最大の規模を誇る上、熱狂的ファンを抱える名門サッカークラブの本拠地である。
コンペに向けて、村尾はバルセロナに約100日間滞在、地中海特有の温暖な気候に触れ、人々の仲の良い様子などを何度も目にした。
この時間を経て確信を得た。「ここには閉鎖的な外装は要らない。訪れる人の姿がその代わりになる。デッキも設けない方が、地上階が明るい」。
施主であるFCバルサは、あらかじめデザインに規定を設けていた。それは、スタジアムの周囲を外装でぐるりと囲むというもの。スタジアムの入り口の周りには観客たちの通行を整理するためのデッキを設けるという規定もあった。
村尾の頭にはこうした規定を満たさないアイデアが浮かんでいた。
「コンペに選抜されたチームの中でもスタートはビリかもしれない。だったら思い切った提案をしよう」
コンペ当日、村尾は規定を守った案と共に、規定をあえて満たさない、取って置きのアイデアも提出した。