心や意識という現象は
ほとんど攻略できていない

 出版社による本書の内容紹介では、「今日、その答えはすぐ間近にあると著者は説きます」と書かれているが、実際に内容を読んでみると、著者はそれほど楽観的には考えていないことがよく分かるし、正にツルツルの壁を前に悪戦苦闘している様がビビッドに伝わってくる。

 更に、「生命とは何か?」というシュレーディンガーの疑問がとても難しい問題だとしたら、「心とは何か?」という疑問は、それに輪をかけてとてつもなく攻略が難しい超難問である。生命の数多くの不可解な性質の中でも、心や意識という現象は際立って不可解であり、人類の歴史において過去2500年にわたって深く考察されながら、ほとんど攻略できていない問題である。

 生理学者のレーヴェンシュタインは、「心のおおもとである意識の本質に関して我々が知っている事柄は、ローマ人と同程度である。何も知らないのだ」と語っているが、著者も、「意識は、科学、さらには実在をめぐる最大の問題である。ほとんどの科学者は、あまりに深い泥沼だからと回り道をする。これまでにその泥沼に飛び込んだ科学者や哲学者のほとんどは、足を取られてしまった」と書いている。

「一体何が生物と他の物理的システムとの違いを決定し、生物を特別な存在にする活力を与えているのか?」、「そもそも生命はどこから来たのか?」、そして「心や意識とは何か?」という大いなる謎について、これほどまでに手が届かないと、どうしても超越的な神の存在や汎心論(あらゆるものが心的な性質を持つとする世界観)に走ってしまう方が気が楽になるのも分かるが、やはりこの問題の解明は科学者の手に委ねたいと思う。

 ガリレオにせよニュートンにせよデカルトにせよ、結局は創造主である「神の作った物理法則」という世界観に大きく依拠していた。しかしながら、自分の限られた知識の範囲で理解できないことは、最終的に宗教の世界に押し付けてしまうという姿勢では、そこで科学の進歩は止まってしまい、思考も停止してしまう。そうした意味で、本書の続編には今から大いに期待したいと思う。

 なお、本書の概要については、原題と同じ”The Demon in the Machine”というタイトルの講演がYouTubeにもアップされているので、そちらも参照して頂きたい。プレゼンテーションに図表がたくさん出てくるので、本書を読む上での参考になると思う。

(HONZ 堀内 勉)