現在の年金制度の骨格が固まった2004年の改正以降、顕在化してきた格差が二つある。一つ目は、国民年金の財政悪化で生じた、国民年金(基礎年金)と厚生年金の給付額の減少幅の格差であり、二つ目は、現在年金を受け取っている世代と将来世代の給付水準の世代間格差である。財政検証で示された改革案は所得代替率50%の維持を含めて実施すべきものであるが、二つの格差の解消には力不足である。(ダイヤモンド編集部編集委員 竹田孝洋)
国民年金の財政悪化で給付調整が長期化し、厚生年金との格差広がる
公的年金には、解消すべき格差が二つある。
一つは、厚生年金の報酬比例部分と、現状のままでは給付水準が低下し過ぎてしまう国民年金(基礎年金)との給付額減少幅の格差(厚生年金は報酬比例部分と、国民年金と同じ給付額となる基礎年金から構成される)。もう一つは、給付水準の世代間格差である。
前者について言えば、国民年金のみの受給者や、厚生年金加入者でも低所得で基礎年金の比率が高い受給者の給付水準が低下し過ぎると、老後の生活維持に問題が生じる。
後者については、財政を持続するための給付抑制が長期化することにより、既存の受給者と将来世代の受給者の給付水準の格差が開いてしまうことで、世代間の不公平が拡大する。
安倍内閣は、年末にかけて公的年金の改革案をまとめる予定だ。
年金改革には、財政を改善するという視点だけでなく、これら二つの格差の解消を視野に入れることも必要であるが、現在予定されている改革では、格差はあまり解消されず放置されたままとなりそうだ。
国民年金と厚生年金の格差はなぜ生じるのか。それはマクロ経済スライドという仕組みによる年金給付の抑制期間が、国民年金の方が長く、厚生年金の方が短いためだ。
第1回で取り上げた、各ケースの給付調整終了時の所得代替率に差が生じる理由も、マクロ経済スライドによる調整期間の差にある。
現役世代の負担を増やさずに、年金財政の持続性を高めるためには、給付を抑制するしかない。そのために、年金の保険料を支払う人数の減少率に平均寿命の伸び率を加えた分だけ年金給付を抑制するマクロ経済スライドが、2004年の改正で導入された。
公的年金は、受給し始めるときの給付額は、現役世代の賃金の伸び率に合わせて増減され、その後は、物価の上昇率に合わせて増減される。
物価が2%上昇したとして、マクロ経済スライドによる抑制分が1%だったとする。マクロ経済スライドが適用されなければ年金が2%増えるところが、適用されることで1%の増加に抑制される。こうして年金財政の持続性を高める。
経済成長率が高く賃金が増加すれば、その分保険料収入が増え、財政が改善する。そのため、マクロ経済スライドによる給付の調整期間が短くて済み、調整後の給付水準が高くなる。だから、第1回で見たように、経済前提が楽観的なケースほど給付調整後の所得代替率が高くなる。