外見と中身が一致しない状況を表現する「羊頭狗肉」という四字熟語がある。現在、一部の先進国で追求されているマイナス金利政策は羊頭狗肉の様相を呈してきてはいないか。
マイナス金利を採用する国では導入当初、「そう長くは続けられない」という声が多かった。しかし、現在では「準備預金に階層化システムを強化することで銀行部門への影響を限定すれば深掘りは可能」という風潮も感じられる。欧州中央銀行(ECB)は9月12日、マイナス金利の深掘りと同時に階層化システムの導入を発表した。
もちろん、マイナス金利政策に捨て難いポジティブな効果が認められるならば大きな問題はない。しかし、マイナス金利政策を導入して欧州では丸5年、日本では丸3年が経つが、その効用として取りざたされるのは不動産を含むリスク資産価格の上昇や金融機関収益の押し下げくらいであり、最終的なゴールだったはずの物価の押し上げについては両地域とも実現していない。
ユーロ圏に至っては過去5年間でインフレ期待が完全に腰折れのステージに入った感もあり(図表1)、現状の景気に関して言えばドイツを中心として後退の淵に立たされている。片や、金融機関の経営体力がマイナス金利環境の中で衰えていることははっきりしており、「このままシステミックリスクに至ってはまずいので軽減策は必要」との判断から階層化システムの検討そして導入に至ったというのが実情だろう。
もともとECBは階層化システムについて、取引慣行などが国によって異なり、事務的コストがかさむユーロ圏では運用が難しいとの理由から却下していた。
2016年3月10日の政策理事会でドラギECB総裁は階層化システムを導入しない理由として、(1)金利先安観を演出したくなかったこと、(2)ユーロ圏では複雑で適用しにくいこと、などを挙げている。当時は一番目の論点が注目を集めたが、実は二番目の論点にも触れていた。具体的には「異なる規模、異なる状況、異なる市場環境に置かれた多くの銀行」が存在するユーロ圏では難しいという話だった。今回、階層化システムを導入したことでこれらの理由が脇に置かれたことになる。
導入以降の経緯を踏まえれば、現状はマイナス金利政策の効果を検証するステージにあると考えられるが、足元では「効果の検証」ではなく「いかにマイナス金利の看板を降ろさずに続けられるか」という「継続の可能性」に焦点が移りつつあるように思える。