年金制度がなかったら
負担で潰れる子供も出てくる

 また、もしも公的年金制度がなかったらということを考えてみよう。そんな場合、年をとって働けなくなった人の生活は、一体だれが支えることになるのだろう。昔、年金制度がなかった時代は、親の生活は子供が面倒を見るものであった。ところがこの場合も同様に大きな問題がある。それは家族によって状況が全く異なるため、負担も大きく違ってくることだ。具体的にどういうことなのかを考えてみよう。

 A家という家がある。両親は65歳で、30歳の子供が1人いる。両親が引退した後、一切働かず、年金もないとすれば、仮にその両親が90歳まで生きたとすると生活費がどれぐらいかかるか。仮に年300万円の生活費だとすると、(90歳―65歳)×300万円=7500万円となり、この30歳の子供は親の面倒を見るために7500万円を負担しなければならない。これは正直言ってかなり厳しい話だ。

 ところが今度はB家という家では、同じように両親が65歳でも子供が4人いるとしよう。B家の両親は75歳で亡くなったとすると、生活費は先ほどと同じ年300万円の場合、(75歳―65歳)×300万円=3000万円。で、4人の子供で分担すれば1人750万円であるから、これなら何とかなるかもしれない。

 つまり年金制度というものがこの世の中に存在しなければ、子供の数や親の寿命によって、それを支える人の負担に大きな格差が生じてくることになる。年金制度の役割は社会全体で高齢者を扶養することによって、こうした不公平をなくすということにもあるのだ。

 現実に公的年金制度ができた歴史は比較的新しく、国民年金制度が始まったのは昭和36年である。それまでは戦前からずっと親の面倒は子供(それも長子が親の財産を相続したうえで)が見るというのが社会的な常識だった。ところが戦後の高度成長期で地方から都市へ若者が出ていき、核家族化が進んだことによって従来のような仕組みが成り立たなくなってきたことで、社会全体でお年寄りの生活を支える、いわば国ぐるみの仕送り制度として公的年金制度が出来上がってきたのだ。