社長が、5ヵ月以上、
出社できなかったときは…

 長女(千春)に専務としての自覚が芽生えたのも、“僕がいなかったから”です。

 新社屋に移転してすぐ、僕が体調を崩し、5ヵ月以上、出社できなかったことがあります。

 社長の不在が、千春の転機になりました。
 僕の代役を務めながら、
「能作とは、どういう会社なのか」
「能作の根底には何があるのか」
 を懸命に考えぬき、その結果として、
「会社を背負っていかなければいけない」
「会社の方針を決定しなければいけない」
 覚悟が決まったのだと思います。

「誰にも頼ることができない」
「頼る人がいない」
 局面が、千春の成長を促したのです。

 産業観光部のある社員は、
「能作は先輩から指導を受けること以上に、自分で知識を学ぶ会社」
 であると感じていると言います。

「私は工場見学の案内をおもな業務としていますが、先輩から厳しく指導を受けたり、諭(さと)されたりしたことは一度もありません。
 能作では、『自分で知識を身につけ、自分で改善していく』ことが多いと思います。
 私の場合は、お客様に鍛えていただいている感じですね。
 質問の答えに窮(きゅう)したときは、すぐに職人さんに確認するなど、自分から動くようにしています。
 案内を始めたばかりの頃は、質問に答える自信がなくて、『やりたくないな』と思うこともあったのですが(笑)、今では、やりがいを感じています」

――そういう「やりがいの芽生え」もあるのですね。勉強になります。

能作:ありがとうございます。富山の本社の雰囲気を少しでも知りたい方は、第1回連載もご覧いただけたらと思います。

能作克治(のうさく・かつじ) 株式会社能作 代表取締役社長
1958年、福井県生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒。大手新聞社のカメラマンを経て1984年、能作入社。未知なる鋳物現場で18年働く。2002年、株式会社能作代表取締役社長に就任。世界初の「錫100%」の鋳物製造を開始。2017年、13億円の売上のときに16億円を投資し本社屋を新設。2019年、年間12万人の見学者を記録。社長就任時と比較し、社員15倍、見学者数300倍、売上10倍、8年連続10%成長を、営業部なし、社員教育なしで達成。地域と共存共栄しながら利益を上げ続ける仕組みが話題となり、『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)など各種メディアで話題となる。これまで見たことがない世界初の錫100%の「曲がる食器」など、能作ならではの斬新な商品群が、大手百貨店や各界のデザイナーなどからも高く評価される。第1回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員会特別賞、第1回「三井ゴールデン匠賞」グランプリ、日本鋳造工学会 第1回Castings of the Yearなどを受賞。2016年、藍綬褒章受章。日本橋三越、パレスホテル東京、松屋銀座、コレド室町テラス、ジェイアール 名古屋タカシマヤ、阪急うめだ、大丸心斎橋、大丸神戸、福岡三越、博多阪急、マリエとやま、富山大和などに直営店(2019年9月現在)。1916年創業、従業員160名、国内13・海外3店舗(ニューヨーク、台湾、バンコク)。2019年9月、東京・日本橋に本社を除くと初の路面店(コレド室町テラス店、23坪)がオープン。新社屋は、日本サインデザイン大賞(経済産業大臣賞)、日本インテリアデザイナー協会AWARD大賞、Lighting Design Awards 2019 Workplace Project of the Year(イギリス)、DSA日本空間デザイン賞 銀賞(一般社団法人日本空間デザイン協会)、JCDデザインアワードBEST100(一般社団法人日本商環境デザイン協会)など数々のデザイン賞を受賞。デザイン業界からも注目を集めている。本書が初の著書。
【能作ホームページ】 www.nousaku.co.jp