市場問題に触れたがらない小池知事
“秘密会議”すら形式化して条例改正へ
「盛り土がない」――。16年8月に就任して以降、豊洲移転計画の“闇”を喧伝して驚異的な人気を集めた小池知事。だが17年に「希望の党」を率いた総選挙で敗北し、有権者の期待が失望に変わってからは、ひたすら既定路線である移転推進にかじを切った。
その後は豊洲市場の抱える問題や、これも小池知事が言い出した「築地再開発」計画について記者会見などで質問されても、まともな回答を避けることが多い。もはや触れられたくない自身の“黒歴史”と化しているのかもしれないが、小池知事が率直に問題のありかを認め、解決に取り組む姿勢を示さない限り、都の担当者や市場で働く人々はこれらの問題にさらされたまま、日々の業務を続けることになる。
そんな市場の人々の生活を大きく変えうる政策について、またもや杜撰な議論が進められようとしている。
改正卸売市場法が昨年成立し、来年6月に施行されるのに合わせ、都は中央卸売市場条例を改正するため、水産や青果、花きの業界団体トップや専門家を集めた「改正準備会議」を昨年12月から4回開いた。
ただし会議は非公開だ。メンバーの一人で、卸売市場や小売業界に詳しく、卸売市場法改正の審議では自民党の参考人として国会に出席した東京聖栄大学の藤島廣二客員教授は、「3回目の会議までは抽象的な議論ばかり。4回目になって突然、都が改正案の概要を示したので、具体的な議論はできないまま終わった」と話す。準備会議は4回目が最後であり、都は改正案を早ければ12月の都議会第4回定例会に提出する。
改正案の概要によれば、卸業者が買い取った商品をその日のうちに上場させたり、指値をしたりする際に知事に届け出るといったルールがなくなるほか、仲卸業者の役員を兼務できるようになるなど、主に卸業者を規制してきたルールが大きく緩和される内容となっている。
前出の伊藤氏は豊洲市場の水産卸業者の取りまとめ役でもあるが、「卸も仲卸業者も仲間だ。互いに励まし合い、古い条例に代わる新しいルールを自分たちで作っていく」と強調する。
ただ、仲卸業者は豊洲の地の利の悪さや駐車場不足によって、現金決済が多い中小鮮魚店や飲食店など小口の客が減り、売り上げの減少や資金繰りの悪化に苦しんでいる。そのような状況の中、条例改正により、規模や資本力ではるかに上回る卸業者主導でルール作りが進むことを懸念する声がある。
日本最大の取扱量を誇る豊洲市場を擁する都の条例改正には、全国の自治体や市場関係者が注目しているが、都は非公開の会議においてさえ、十分な議論を経なかったと指摘されるありさまだ。豊洲市場が抱える問題と、これらに対する小池知事や都の姿勢を踏まえれば、やむを得ないのかもしれない。