採用面接会場は「羽田空港のカフェ」?
採用面接でビール?
「能作に入る以前、私は、金沢に本社を置く印刷会社に勤めていました。
東京に赴任していたのですが、家庭の事情などもあって、結婚を機に地元(富山)にUターンすることになったのです。
高岡に『能作』という会社があることを教えてくれたのは、妻でした。
『オシャレな風鈴をつくって全国に販売する会社が高岡にあった』ことに驚いて、ネットで検索したところ、社長のインタビュー映像を見ることができました。
映像の中で、社長はたしか、『すぎたことはもうしかたないから、振り返らずに突き進んだほうがいい』といったことを話されていて、なんだか私の心境や状況を言い当てているように思えたのです。
当時の私は、『東京で頑張っていこうと思っていたのに、富山に戻ることになった』『働かなければいけないし、稼がなければいけないけれど、先が見えない』と不安を覚えていた時期でしたから、社長のメッセージに背中を押された気がしました。
社員の募集はしていなかったものの、『この人に会ってみたい』と本社を直撃すると、週末にもかかわらず、社長が一人で仕事をされていました。
私が事情を説明したところ、社長は、『じゃあ、履歴書を持ってきてね』と。
私はまだ東京で働いていたので、社長の東京出張に合わせ、面接は羽田空港内のカフェで行われました。
私が席に着くと、社長は開口一番、
『僕は飛行機の機内でワインを飲んできたから、
今度はビールを頼むけれど、
君もビール飲む?』
と……(笑)。
私は『採用面接でビール?』と面食らって、『社長然としていなくて、不思議なキャラクターの人だな』と思ったのを覚えています。
私は、『じゃあ、お言葉に甘えて』と社長の前でビールを飲めるほど器がデカくないので、コーヒーをいただきました(笑)。
社長がビールをすすめたのは、私の緊張をときほぐす『アイスブレイク』だったのでしょう。
錫のようにやわらかい社長の人柄が、能作を支えていると思います。
現在も、私のように“突撃”で入社する人がとても多いのが能作の特徴ですね」
――いやー、びっくりの社長ですね。一本とられました。ありがとうございます!
1958年、福井県生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒。大手新聞社のカメラマンを経て1984年、能作入社。未知なる鋳物現場で18年働く。2002年、株式会社能作代表取締役社長に就任。世界初の「錫100%」の鋳物製造を開始。2017年、13億円の売上のときに16億円を投資し本社屋を新設。2019年、年間12万人の見学者を記録。社長就任時と比較し、社員15倍、見学者数300倍、売上10倍、8年連続10%成長を、営業部なし、社員教育なしで達成。地域と共存共栄しながら利益を上げ続ける仕組みが話題となり、『カンブリア宮殿』(テレビ東京系)など各種メディアで話題となる。これまで見たことがない世界初の錫100%の「曲がる食器」など、能作ならではの斬新な商品群が、大手百貨店や各界のデザイナーなどからも高く評価される。第1回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員会特別賞、第1回「三井ゴールデン匠賞」グランプリ、日本鋳造工学会 第1回Castings of the Yearなどを受賞。2016年、藍綬褒章受章。日本橋三越、パレスホテル東京、松屋銀座、コレド室町テラス、ジェイアール 名古屋タカシマヤ、阪急うめだ、大丸心斎橋、大丸神戸、福岡三越、博多阪急、マリエとやま、富山大和などに直営店(2019年9月現在)。1916年創業、従業員160名、国内13・海外3店舗(ニューヨーク、台湾、バンコク)。2019年9月、東京・日本橋に本社を除くと初の路面店(コレド室町テラス店、23坪)がオープン。新社屋は、日本サインデザイン大賞(経済産業大臣賞)、日本インテリアデザイナー協会AWARD大賞、Lighting Design Awards 2019 Workplace Project of the Year(イギリス)、DSA日本空間デザイン賞 銀賞(一般社団法人日本空間デザイン協会)、JCDデザインアワードBEST100(一般社団法人日本商環境デザイン協会)など数々のデザイン賞を受賞。デザイン業界からも注目を集めている。本書が初の著書。
【能作ホームページ】 www.nousaku.co.jp