特集「新学閥 早慶・東大・一橋・名門高校」(全19回)の第6回は、名門高校5校を取り上げる。霞が関キャリア官僚など従来型の進路の王道コースが色あせ、名門高校OBのエリートたちは新しい道に目を向けつつある。スタートアップ、ベンチャーの業界だ。エリートたちが築くOBネットワークを解剖する。起業家輩出の動きでもトップを走る開成高校、それに続く慶應義塾高校、ライバルの麻布高校、筑波大付属駒場高校、灘高校と見ていこう。(「週刊ダイヤモンド」2019年7月13日号を基に再編集。肩書や数字は当時のもの)
【開成高校】
起業家ネットワークでも断トツの強さ
OBの結束力を生むエンジン
東京大学の合格者数だけではない。有名進学校の中でも群を抜く結束力を誇るのが開成中学・高校だ。
まとまりの源は、難関受験を突破してきた共通体験だけではない。毎年5月中旬に開かれる、開成名物「大運動会」の存在が大きい。
財務事務次官、日本銀行副総裁を歴任、金融業界の開成OBが集う金融開成会会長、武藤敏郎・大和総研名誉理事は「運動会で生まれた絆こそが開成会の結束力の源」と言う。
「何色でしたか?」
「僕は黒組でした」
開成OB同士が出会うと、よくこんな言葉を交わす。
運動会では高校生の八つのクラスに応じ、8色のチームカラーが割り振られる。卒業年度とともに、その色で自己紹介するのである。
開成の運動会の運営は、生徒に一切任され、教員が関わることはない。最高学年の高校3年生は下の5学年のクラス担当となって、その面倒を見る。4月からほぼ毎日競技や応援の指導に当たる。
先の自己紹介に戻ろう。「黒組」の後に、さらに「高1チーム長でした」といったように役職が加わることがある。
この高1チーム長とは、高1生の面倒を見る責任者のこと。団長や高2チーム長、高1チーム長などは、クラスの仲間の信任を得ないと就けない“主要ポスト”だ。「仲間をまとめ上げる、リーダーシップもある」というお墨付きをもらっているわけだ。
こわもての高3生の大声に、制服の袖を通したばかりの新中学1年生がびびりまくり、こってり指導を受ける様子は、開成の入学シーズンの風物詩となっている。
こうして高3生が下級生の面倒を見、運動会を一緒になって戦うことで、強い絆が生まれる。
横だけでなく、上下関係においても強固な開成OBネットワーク、チャラチャラしたことを嫌うバンカラ気質――。こうした学校カラーは、運動会が礎となっているのである。
開成OBのネットワークは政官財界の主だった領域に広く根を張る。まず、岸田文雄・自由民主党政調会長を中心とした永霞会(永田町・霞が関開成会)がある。