商品の説明をしないと、
自分のことを話すか、相手の話を聞くしかなくなる
私の受講生の中で、トップセールスに大変身した人がいます。自動車の部品メーカーの下請けをやっている会社の二代目。「とにかく、下請けばかりで儲からない。先生、どうしたらいいですか」と嘆いているような人でした。
その彼が自分のセールスによって、業績をたった2年で3倍に伸ばしたのです。人と話をするのも緊張して思うようにできない人でしたが、会社を支えるトップセールスに短期間で成長したのでした。
その秘訣こそが、「会ってすぐ商品の説明をしない」です。
この会社は、メーカーから送られてくる機械の製作図面を見たうえで、見積もりを提出。
OKが出れば製作に入るという完全受け身のスタイルで長年やっておられました。
メーカーの本音は、製品を作るうえで、どこに頼もうが変わりがない。発注先は、FAXやメールのやり取りだけで価格の安いところに決まるというものでした。当然、競合他社も多い。そこで、彼は図面を描いた担当者に会わせてもらうことにしたのです。「いい製品を作りたいので、図面の作成担当者に会わせてほしい」と。
初めての試みです。まずは「担当者に心を開いてもらうために、『感謝』と『褒めること』を忘れず、話を聞くことから始めよう」と、肝に銘じて面会に向かいました。
「いつもありがとうございます(感謝)。○○会社の□□でございます」
「お問い合わせいただいた図面ですが、拝見させていただけませんか?」
彼は見せてもらった図面を丁寧に見ます。おもむろに、
「素晴らしいですね(褒める)。よくここまで描かれましたね。随分時間がかかったのではないですか?」
と言うのです。すると図面の作成担当者が、
「そうなんですよ。じつは……」
と自分がいかに図面を描くのに苦労したかを堰(せき)を切ったように話し始めたのです。
今まで言われたこともないような感謝と賞賛、ねぎらいの言葉にびっくりしたのでしょう。彼はさらに共感をし、目の前の人の話をしっかり聞くようにしたのでした。
すると、図面の作成担当者は、「あなたのように図面をしっかり見てくれる製作先はいないですね。これぐらい図面をしっかり見てくれれば、間違いなくいいものを作ってくれる。今後は、御社にお願いするように言っておきますよ」と話してくれたのです。
この成功で自信を持ち、図面が送られてくる企業にどんどん訪問し、売上が一気に伸びました。彼は、短期間で見事なトップセールスへと変貌したのです。
これは、「会ってすぐ商品の説明をしない」という成功例です。
「商品の説明をしない」というルールをいったん設けると、たいていのセールスパーソンは話す内容がなくなります。何も話さないわけにもいかないので、自分のことを話すか、相手の話を聞くしかなくなるのです。これが、この技の妙なのです!
まず、目の前の担当者に対して感謝と賞賛、ねぎらいの言葉をかけ、仕事に対する理解を示します。担当者と人間関係づくりを行うために、相手のことを聞く、特に苦労話や成功談を聞くことが、いかに重要であるかがわかります。
このように「商品よりも、まず会っていただいた目の前の人を大事にする」のです。これは、セールスパーソンにとって、肝に銘じるべき重要なこと。このことを誰よりも理解した人がトップセールスとなっていくのです。