業務命令で参加した研修は
欠勤扱いの上に自腹で支払い

 L社では、管理部の離職率が異様に高く、山田の先輩も山田が入社するとすぐに退職してしまった。さらに2~3人の社員が入社数週間で辞めてしまい、山田は困り果てていた。

 離職の最大の原因は常務にあるのだが、本人は「山田君、もっと新人の面倒をちゃんと見てくれ!」と、山田のせいにしていた。

 上村は経理の経験者で仕事もできる。山田は上村が退職しないように、いろいろと気遣っている。一方の上村も、常務の言動にあきれはするものの、自宅から近い職場だし、同僚の山田の人柄もいいので、今の仕事を続けていこうと頑張っている。

 だが、山田と上村の気持ちを踏みにじるような出来事が起きた。

 ある日、常務が山田のところにやってきて、「うちの税理士に薦められたので、君たち2人、この研修を申し込むように」と言って、ある研修のチラシを渡された。2日間の経理の実務研修で、確かに勉強になりそうな内容だった。参加費は1人2万円で、開催は平日となっていた。

「ありがとうございます。それでは、上村さんと私で申し込んでおきます」

 山田が常務にお礼を言うと、常務が思い出したように付け加えた。

「参加費は2人とも自分で払ってくれ。それから、平日なので欠勤になるから」

 山田は、「えっ」と驚いた。確かに自分たちのスキルアップのためではあるが、自腹で2万円は負担が大きい。さらに欠勤扱いとなれば給料も引かれてしまう。

「せめて出勤として認めてもらえないですか?」と山田はお願いしたが、常務は「仕事しないで研修なんだから、欠勤だろ!」と一蹴した。山田は仕方なく、「あの、それならば、大変申し訳ないのですが、今回は参加を見送らせてください」と丁寧に断った。

 だが、それを聞いた常務は激怒した。

「上司が行けと言っているのに逆らうのか?業務命令違反だ!」

「業務命令なら出勤扱いになりませんか?」

「なんで会社が仕事もしていない時間に金を払うんだ!」

 常務との話は平行線をたどり、山田は「反論しても無駄だな……」と思い、「分かりました」と答えた。

 先日も、常務が昼休みに突然「打ち合わせをする」と言って、山田と上村を呼び出した。そして打ち合わせが終わり、昼休みを午後にずらして取ろうとしたところ、「昼休みは終わっているんだから、さっさと食べて仕事に戻れ!」と怒られた。

「常務が打ち合わせを昼休みに入れたので」と山田が言うと、「言い訳するな!」と怒鳴られた。

「これってパワハラではないのか?」

 常務の理不尽な言い分と感情的な言動に嫌気した山田の脳裏を「退職」の2文字がよぎった。