日本の製造業はサブスク導入による
「両建て」の戦略構築が鍵になる

――日本の産業界についてお聞きしたいのですが、この半年、日本ではサブスクという言葉が一気に広がりました。日本の状況をどう見ていますか。大胆にサブスクに取り組んで成功した企業が、欧米と比べて少ないように思います。

 日本はサブスクの浸透率が常に高い状況で、他の国と比べても進んでいるとみています。日本は欧米の企業に比べて遅れているということはありません。

――日本の多くの企業は、すでにビジネスモデルが確立されていて、ある程度稼いでいます。著書『サブスクリプション』には、サブスクに移行する時に、コスト増加などによって既存のビジネスからの収益は落ち込んでしまうことがあると指摘しています。収益とコストのグラフの形状が魚のように見えることから、それを「フィッシュ」と呼んで、サブスク成功へはその「フィッシュ」を飲みこむことが必要だと説いています。日本では、この「フィッシュ」を飲み込めない会社が多いのではないでしょうか。

 二つのタイプがあると思います。一つは、急速に業界がデジタルに移行する中にいる会社です。例えば「SaaS」での提供が主流になったソフトウェア業界はそうでした。

 当時、顧客もそれを求めており、ソフトウェア企業には選択肢がなく、スピーディーにサブスクへの移行を進めなくてはなりませんでした。現れる「フィッシュ」を、多くの企業は進んで飲み込んでいきました。

 株式市場もそうした状況は分かっていて、短期的に売り上げと利益が減少することを我慢し、受け入れてくれました。後々に定期的な収益を得る体質になると分かっていたからでしょう。株価の下落も一時的なものにとどまりました。

 もう一つは製造業です。多くの製造業はまだ商品を売って売り上げをたて、利益を得ています。ただ、これからは製品がインターネットにつながり、サブスクでサービスを売る会社が増えてくるでしょう。そうすると、製品を売ることによって得られる利益と、サービスを売ることによって得られる利益の二つの流れが生まれます。

 トヨタ自動車を例に考えてみましょう。トヨタは車を売っています。ただ今後はインターネットにつながった「コネクテッドカー」が主流になるでしょう。車がサービスのプラットフォームになるわけです。それでサブスクサービスの「KINTO」を始めています。

 トヨタはKINTOが拡大することによって新しい売り上げのフローをつくっていく戦略です。先ほどの「フィッシュ」のように、単純に売り上げが落ち込むわけではありません。既存のビジネスのフローに加えて、新しいビジネスのフローを加える、両建ての戦略を進めればいいのです。

――既存のビジネスが順調であればあるほど、そのビジネスにとって逆風になり得る事業に踏み出せないという「イノベーションのジレンマ」が起こってしまうのではないでしょうか。

 製造業で、例えば販売数量にとらわれ過ぎると、イノベーションのジレンマに陥るかもしれませんね。

 テレビなどの家電でサブスクに移行しようとする企業がありますが、販売数量や工場稼働率など、そういったことにとらわれてしまうとうまくいきません。

――日本の製造業において、サブスクに移行する上で陥りがちなわなはどういうものがあるのでしょうか。

 それは本の47ページを見てほしい(下図)。よくあるのが、製品を中心に据えた考え方のまま、サブスクに移行することです。顧客を中心にしてビジネスモデルを考えていない例はよくあります。