その象徴といわれたのが、2017年10月に行われた衆議院解散総選挙後の、官邸と経産省の原発を巡る水面下のバトルである。

 この総選挙で、東京都知事の小池百合子氏が率いた希望の党をはじめ、野党が「原発ゼロ」を掲げた。しかし、原発が大きな争点になることはなく、与党は大勝した。

 経産省側には、この総選挙を「原発ゼロが否定された結果」として利用し、政権基盤が盤石な安倍政権のうちに原発推進へかじを切りたい思惑があった。

 この時期は政府の中長期的なエネルギー政策の指針となる「第5次エネルギー基本計画」を策定している真っ最中で、絶好のタイミング。経産省側はなんとかして原発の新増設やリプレース(建て替え)の文言を盛り込めないかと画策していた。

 しかし、エネルギー政策は安倍晋三首相の関心事ではなかった。むしろ政権支持率を下げる邪魔なものだった。安倍首相の悲願は憲法改正であり、それを実現するために最も重視するのは政権支持率である。

 故に、官邸が経産省の意向をくむはずもなかった。結局、第5次エネ基で原発の新増設やリプレースに関する記載は見送られた。このバトルは、官邸と経産省の力関係を決定づけるものだった。

 新しく経産相に就任した梶山氏は日本大学を卒業後、動力炉・核燃料開発事業団(現日本原子力研究開発機構)に入社。2000年に初当選し、現在7期目である。

 父は内閣官房長官や自民党幹事長など歴任した故梶山静六氏。動燃に勤務していたこともあり、菅原氏とは対照的に電力行政には明るく、原発推進派である。

 電力業界の中には梶山氏に期待を寄せる者もいるが、「梶山さんも結局は菅(官房長官)人事。関電問題もあり、原発政策は一から出直しというか塩漬けだろう」(業界関係者)というシビアな見方が多くを占める。

 日本は資源に乏しく、石油や天然ガスなどを輸入に頼らざるを得ない。そんな中、世界は地球温暖化を防ぐべく、低炭素化、脱炭素化社会へ急速に向かっている。

 来年にも「第6次エネルギー基本計画」に関する議論が始まる見通しだ。安倍政権が国の根幹ともいえるエネルギー政策を軽視し続けるならば、世界から取り残されることになる。