仮に実現すればウェーブ1だけで、国内2番手のアステラス製薬の売上高(19年3月期約1兆3000億円)に迫る規模だ。武田薬品は25年度以降の承認目標パイプラインは「ウェーブ2」と名付け、こちらは売上予想を明らかにしなかったものの25製品以上をノミネートした。

 ウェーブ1で注目すべきは12製品中10製品(効能別では14効能中12効能)までもが、買収先企業が創製または開発していた製品であったり、買収先以外の他社からの導入品であったりすることだ。米ミレニアムは08年に約9000億円で、米アリアドは17年に約6000億円で、アイルランド・シャイアーは19年に約6兆円で買収した製薬会社だ。

 一般的に自社創製、自社開発の方が利益率は高く、製品が大型化した際のリターンも大きい。新薬メーカーとしては、自社から有望な製品を生み出せない状況は誇れないはずだ。

 だがある武田薬品OBがウェーブ1を見て、「常に高値掴みしたとの批判はあったが、買収がなければパイプラインはスカスカだったと思うとぞっとする」と感想を漏らしたように、自社だけではパイプラインを充実できなかったことも事実。そもそも数年前から経営に参画した外国人幹部からすれば、従来のR&Dの生産性の低さは自分たちの責任ではない。買収でも何でも、パイプラインを充実させた事実こそ誇るべきことなのだ。

 アンドリューS・プランプ取締役は「本当に素晴らしい5年間でした」と振り返ったが、まさしく武田薬品のR&D変革はこの5年間に一気に進んだ。同氏の言葉を借りれば、それは「進化ではなく革命」だった。

 旧湘南研究所(現湘南ヘルスイノベーションパーク)で日本人研究者のリストラを断行する一方、研究の中心を米国に移した。モダリティ(治療手段)の多様化も図り、低分子化合物中心だった研究体制から細胞療法、遺伝子治療など次世代の基盤技術に手を広げた。相次ぐ買収でメガファーマ(巨大製薬会社)にメンバー入りし、研究開発費は約5000億円規模と破格になった。パートナリングは引き続き強化するが、自社からも有望な新薬を生み出せる体制は築いた。ここまでの荒療治は、メガファーマ経験者揃いの外国人幹部たちではないと成し得なかっただろう。