武田薬品の目下の課題は、19年3月期で売上高2692億円を稼ぐ、潰瘍性大腸炎治療薬「エンティビオ」の特許切れ問題だ。20年代半ばに特許が切れて他社のジェネリック医薬品に置き換わり、一気に減収となることが見えているからだ。その点でも、クリストフ・ウェバー社長兼CEO(最高経営責任者)は「成長している製品群とウェーブ1でエンティビオのロスを埋めることができる」と自信を示した。

 経営陣が誇るように、パイプラインは充実した。しかし当然だが、新薬の上市確率に100%はない。「手持ちの宝くじの枚数が増えただけ」(ある医薬担当アナリスト)との批判に対しては、結果で示していくしかない。

旧タケダ発の有望新薬候補は
神経精神疾患領域の「わずか2品」

 100億ドルを超えるポテンシャルだとして示された前出ウェーブ1の12製品のうち、武田薬品の自社創製と厳密に言えるのは、共にニューロサイエンス(神経精神疾患)領域の「TAK-935(発達性及びてんかん性脳症)」と「オレキシンプログラム(ナルコレプシータイプ1<居眠り病>治療薬)」のわずか2製品に過ぎない。TAK-935では他社と共同開発の道を選んだ一方、オレキシンプログラムは自社開発で進めている。またR&Dデーで個別に説明パートを設けたのはオレキシンプログラムだけだった。故に2製品でも特に期待をかけているのはオレキシンプログラムのようだ。

 R&Dデーではオレキシンプログラム臨床第1相試験の詳細なデータが示され、「単純に比較はできない」(ニューロサイエンス領域グローバルプログラムリーダーのデボラ・ハートマン氏)としながらも既存の薬剤よりも有望な覚醒延長効果が紹介された。また居眠り病以外にも、シフト勤務による睡眠障害や代謝疾患などへも適応症を拡大する可能性が示唆された。

 他社由来でも何であっても、患者の健康に貢献する革新的なアウトプットを生み出せるかどうかこそが新薬メーカーにとって大事なことは論をまたない。さはさりとて、「12製品中2製品」の自社創製という実態には、一抹の寂しさを覚える。落下傘の外国人幹部らに生産性の低さを糾弾された旧湘南研究所発のこの2製品が、“名誉挽回”とばかりに大型製品化することを期待せずにはいられない。