今年から発達障害のお子さん、出産後の赤ちゃんへの授乳もできるよう個室をつくった。プレイスペースもある
今年から発達障害のお子さん、出産後の赤ちゃんへの授乳もできるよう個室をつくった。プレイスペースもある Photo by M.F.

 例えば、カット時に着るビニール製のクロスを嫌がる子どもの場合は洋服で、あるいは、子どもが洋服を脱いで裸になってしまったときは、そのままカットしたこともあった。ゆっくりさんの予約が入る場合は他の客を少なくするなど配慮し、子どもが大きい声で叫んだり、走り回ったりしても怒らない。

「子どもはじっとしていることはなく、常に動き回るもの。お子さんがヘアサロンの部屋やその時間を楽しめるような工夫をしています」と藤川さんは言う。

 ゆっくりさんの予約は、余裕を持って1時間取る。そのほとんどは子どもの好奇心や気持ちに合わせて一緒に遊びながら信頼関係をつくる。最初に子どもとよくコミュニケーションを取り、不安や怖いという気持ちを抱かせず、相互の信頼関係ができれば、子どもは「いとも簡単に切らせてくれる」(藤川さん)。最初は嫌がっていても、ヘアカットを始めたら10~15分程度で終わる。

「美容師がハサミを小さく開閉し、手を添えて切っていれば、お子さんを傷つけることは基本的にはありません。最近ではどんな子どもがいらしても、難しいと思わなくなりました」と藤川さんはにこやかに話す。

散髪で子どもの可能性を広げたい
専門的に勉強して、講習会で指導も

 京都市の美容室「Peace of Hair」のオーナースタイリストの赤松隆滋(りゅうじ)さんも、9年前から発達障害等によるヘアカットが苦手な子どもへの「スマイルカット」に取り組む。スマイルカットとは「子どもが笑って、保護者も笑って、美容師も笑う。みんなが笑顔になるカット」。きっかけは、発達障害の8歳の子どもを持つ母親の相談に乗ったことだった。男児のヘアカットの練習をすることになり、安易な気持ちでバリカンを使ったところ、子どもがパニックを起こして泣き叫んだ。赤松さんはその様子に驚いて、立ちすくんでしまった。

4歳のとき、美容院で泣きわめいて嫌がるため、途中でカットできなくなり断られたエピソードが二度もあった。だが、赤松さんのスマイルカットを受けるようになり「散髪は怖くない、痛いこともしない、美容師さんはやさしい人、気持ちいい」と苦手意識を真逆にしてもらったという
「Peace of Hair」オーナースタイリストの赤松さん。手前の男児は4歳のとき、美容院で泣きわめいて嫌がるため、途中でカットできなくなり断られたエピソードが二度もあった。だが、赤松さんのスマイルカットを受けるようになり「散髪は怖くない、痛いこともしない、美容師さんはやさしい人、気持ちいい」と苦手意識を真逆にしてもらったという Photo:そらいろプロジェクト

 そのときの苦い経験が忘れられず、赤松さんは発達障害の専門書を何冊も読んだという。わかったことは「子どものわがままや親のしつけの問題ではない」「子ども目線で見れば、すべての行動には理由がある。必要なことは少しの配慮と工夫だけです」と赤松さんは言う。

 例えば、次に何が起こるか見通しが立たないことに不安を感じる子どもの場合、椅子から立ち上がって動き回ることが多い。そんなときは、まず子どもが落ち着ける環境づくりから始める。周りのいろいろな情報が目や耳から入り過ぎて落ち着かない場合は、パーテーションなどで座席を仕切ったり、目につくところのオブジェや掲示物を移動して周囲をスッキリさせたりする。