「偽物」をめぐるドラマが面白すぎる
東京大学史料編纂所教授
東京都出身。東京大学・同大学院で石井進氏・五味文彦氏に師事し日本中世史を学ぶ。大河ドラマ『平清盛』など、ドラマ、アニメ、漫画の時代考証にも携わっている。おもな著書に『新・中世王権論』『日本史のツボ』(ともに文藝春秋)、『戦いの日本史』(KADOKAWA)、『戦国武将の明暗』(新潮社)、『上皇の日本史』(中央公論新社)など。
――先ほどから、史料の「本物」「偽物」の話が出ていますが、「偽物」の史料って、結構多いものなんでしょうか?
本村:結構多いですよ。中世なんかでは、意外と偽文書が出回るんだよね。
本郷:へえ、ヨーロッパですか?
本村:ヨーロッパ中世だね。「ここにコンスタンティヌスが土地を寄進した」とかって。そういう信ぴょう性のあやしいものがどんどん出てくる。で、それが写本になって資料として残っているようなものがあるから、それに反論する人は大変な思いをするだろうなあ。
本郷:時間がたって、逆に偽文書にそれなりに価値ができちゃうことって、日本史でもたまにあります。有名なのは、空海の「御手印縁起」という、高野山の領地を朝廷から認められたというので、空海が手形をベタッと押したやつがあるのね。それは真っ赤な偽物なんだけど。だけど、それを持ち出して、中世高野山は「ここからここまで俺のもの、全部」と、主張するわけ。
でもそれぐらいかな。日本人はそういう意味で言うと、おとなしいのかもしれませんね。
本村:ヨーロッパはまだまだありますよ(笑)。
アルファベットの起源についても、偽物問題がある。ローマ人がアルファベットを最初に使い始めたのが、だいたい紀元前7世紀くらいだといわれているんだけど、これはラテン語のアルファベットが書かれたブローチが発見されたからなんです。
でもその後、ブローチそのものは確かに紀元前7世紀ものだけど、文字に関しては偽造だという説も持ち上がって、いまだに論争が続いている。