「あぶない偽物」は世界中にあふれている

歴史学者に聞く「あぶない」史料の見分け方本村凌二(もとむら・りょうじ)
東京大学名誉教授。博士(文学)
熊本県出身。東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。東京大学教養学部教授、同大学院総合文化研究科教授を経て、早稲田大学国際教養学部特任教授(2014~2018年)。専門は古代ローマ史。『薄闇のローマ世界』(東京大学出版会)でサントリー学芸賞、『馬の世界史』(中央公論新社)でJRA賞馬事文化賞、一連の業績にて地中海学会賞を受賞。著書は『はじめて読む人のローマ史1200年』(祥伝社)『教養としての「世界史」の読み方』(PHP研究所)『地中海世界とローマ帝国』(講談社)など多数。

――本物か偽物か、判断できないものがたくさんあるというのは意外でした。でも、「明らかにこれは偽物だろ!」という「あぶない偽物」はないんですか?

本郷:ありますよ。「頼朝公十三歳のみぎりの頭蓋骨」とか……。

――頼朝が13歳で死んだことになってるんですね……。

本村:それは「やばい」ね。

本郷:あとは、三国志の「曹操の骨」とかいって、頭蓋骨だけあるとかね。

――ほかの骨はないんですか?

本郷:ほかはありませんね。曹操の奥さんの墓も周りになければ、家臣の墓も周りに何もない。曹操は皇帝にはならなかったけども、王さまでしょ。そうすると、周りにだいたい家族のお墓だったり、それから家臣のお墓だったりというのがあるわけなのに、曹操の墓だけあって。だから今でも論争があるみたい、本物かどうか。

本村:10年ぐらい前に発見されたやつだね。

本郷:そう、だからそのニュースが出たときは「きゃっほー!」って喜んだんだけど、偽物かもしれないっていうのはガッカリですね。

本村:ヨーロッパで有名なのは「キリストの聖衣」ですね。キリストが十字架から下ろされたときに着ていたという。

本郷:有名ですね。

本村:「トリノの聖衣」というので有名だったんですよ。ところが、つい十数年前に、世界中の三つの大学でその成分を分析したら、みんな、同じ結果が出たんです。これは12世紀のものだと。

本郷:布そのものの時代がですか?

本村:そうです、正確には繊維がですね。それで、これは偽物だとわかったわけ。
僕、その一件のあとに大英博物館へ行ったんだよ。そしたら「偽物展」という展示をやっててね、そのトリノの聖衣が真ん中に置いてあるの。目玉商品になってるんだよね(笑)。

本郷:すごいなあ(笑)! そういうところ、ある意味健全な精神という感じもしますね。

――ありがとうございました。本物のような「あぶない史料」があふれるなか、嘘のような本当のエピソードを探し出すご苦労があって、おもしろくてタメになる『やばい日本史』『やばい世界史』ができあがったんですね。子どもから大人まで、幅広い年代の方がこの本に惹かれる理由がわかった気がします。