怠け者の発明

 あるところに、怠け者で有名な男がいた。男は農家の子どもだった。親からは、大人になったら農業をするようにいわれていたし、男もそのつもりでいた。

 さて、男は大人になると農業を始めた。しばらくは真面目に働いていたものの、仕事が面倒でたまらない。もともと怠け者なのだから、当然といえば当然だ。そこで男は考えた。

 「私の代わりに、田畑で働いてくれるロボットが作れないだろうか。もしも、そんなロボットがいたら、私は一日中、家で寝ていられるのだが」。

 男はその計画を実現させるために、ロボットを作り始めた。幸運なことに、男にはそちらの才能があったらしい。ついに、田畑で働いてくれる農業ロボットが完成した。

 ロボットは朝になると、家を出て田畑に行く。そこで昼間働いて、夕方になると家に戻ってくる。男は幸せだった。なぜなら一日中家で寝ていられるからだ。

 ところが、男の幸せは長くは続かなかった。ひと月経つと、ロボットが壊れてしまったのだ。男は修理しようとしたが、どうしても直らない。そこで仕方なく、また最初からロボットを作ることにした。そして再びロボットが完成し、男の幸せな日々が復活した。

 しかし、そのロボットも、ひと月経つと壊れてしまった。仕方ないので、男はまた新しくロボットを作った。そんなことが繰り返される日々が始まった。

 しばらくは一日中寝ていられて幸せなのだが、ひと月経つとロボットを作らなくてはならない。それが面倒でたまらない。そこで男は考えた。

 「私の代わりに、ロボットを作ってくれるロボットが作れないだろうか。もしも、そんなロボットがいたら、私は一日中、家で寝ていられるのだが」。

 男はその計画を実現させるために、新型のロボットを作ることにした。農作業をする機能だけでなく、ロボットを作る機能もつけ加えたのである。

 新型のロボットは、ひと月経つと新しいロボットを作って、それから壊れた。だから、もう男は何もしなくてよかった。農作業もロボットがしてくれるし、新しいロボットもロボットが作ってくれるのだ。男は一日中、家で寝ていられて幸せだった。

 幸せな男はとくにやることもないので、毎月作られるロボットを観察してみた。すると、それらのロボットが、少しずつ違うことに気がついた。一応、同じロボットを作るように設計したつもりなのだが、完全に同じコピーを作るのは無理なのだろう。

 たとえば、書類をコピー機でコピーすれば、字が少しかすんでしまう。コンピューターによるデジタルデータのコピーだって、ものすごく低い確率だが、必ずミスが起きる。この世に完璧なコピーは存在しないのだ。

 だから、毎月作られる農業ロボットも、少しずつ違う。農作業が少しだけ速いロボットも、少しだけ遅いロボットもあった。30日で壊れるロボットも、31日で壊れるロボットもあったのだ。でも、大したことではないので、男は気にもしなかった。

 実際、これは大したことではなかった。性能が1のロボットが作ったロボットの性能が、1.1になるか0.9になるかはだいたい同じ確率だった。だからロボットの性能は、高くなったり低くなったりした。したがって、ロボットが急激に変化することはなかったのだ。

 このようにして、少し違ったロボットが毎月作られているうちに、ひょんなことから、ロボットを2体作るロボットができてしまった。ところが、男の家には、ロボットを動かす燃料は1体分しかない。

 「これは困ったことになったぞ。どちらか1体しか動かせないが、どうしたものだろう?」

 しかし、男が悩む必要はなかった。この問題は、自然にロボット同士で解決してしまったからだ。

 燃料タンクには毎日、1体分の燃料しか入っていない。ロボットは、毎日農作業が終わって家に戻ると、その燃料タンクから、自分で燃料を入れることになっていた。そのため、農作業が早く終わったロボットが、先に家に戻って燃料を入れてしまう。すると、もう1体のロボットは燃料を入れることができない。そのため、燃料切れになったロボットは、もう農作業はできず、家の隅に転がったままになった。

 そんなことが繰り返されていくうちに、あっという間にロボットの農作業はものすごく速くなった。性能が1のロボットが作ったロボットの性能が、1.1になるか0.9になるかはだいたい同じ確率だ。しかし、生き残れるのは性能が高いロボットだけだ。

 したがって、ロボットの性能は、どんどん高くなっていく。仮に、毎月性能が1.1倍になったとすれば、1年で性能は(1.1の12乗 = 3.138だから)3倍以上になる。4年も経てば、3.138の4乗だから、なんと100倍ぐらいだ。ロボットは、急速に変化していった。

 そして10年後……もはやロボットの能力は、怠け者の男をはるかに上回っていた。そのうえ、もう男の言いなりにはならなかった。農作業もしなくなった。家もロボットがすみやすいように改造されてしまった。ロボットを壊そうとすれば、逆にロボットの方が襲いかかってくる。

 なにしろ、もうロボットの方が賢いし、強いのだ。男は泣く泣く、家を出ていった。

 でも、話はこれで終わらない。ついにロボットは、自分で燃料を採掘するようになり、ロボットの数はどんどん増えていった。とはいえ、作られたロボットのすべてが生き残ったわけではない。ロボットは毎月2体のロボットを作るのだから、すべてが生き残ったら、3年で600億体を超えてしまう。だから、生き残れるのは性能がよいロボットだけだ。

 そのため、ロボットはどんどん増えて、どんどん賢くなって、とうとう地球全体を支配するに至った。もはや人間の姿は、どこにも見当たらなかった。